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ihatov88の小咄集

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68メイドアン 2/5



 とある有名コーヒー店で休憩しながら新聞を読んでいると、後ろから話し声が聞こえてきた。
 聞くつもりはなくてもおっさんたちの話し声が大きいので聞きたくなくても耳に入ってくる。年のころからしたら現役最年長くらいだろうか、腕の時計がいやらしく光っている。
「こないだ行った店がなかなかよかったのですよ」話を切り出すおっさん1号「席に座って店員呼んだら『お呼びでございますか、ご主人様』って迎えてくれるんですよ」
「ほう、それは興味深い。私も言われてみたいなあ『お呼びでございますか、ご主人様』」
それに答えるおっさん2号。表情は見ていないがおよその想像はつく、イイ年してどんな店に行っとんのや、このおっさんらは。それでも聞き耳を立てている自分が悲しい。
「それで、そのお店はどこですか?」
ウサギのように耳を立てる自分。
「本町の『メイドアン』ってとこです」

 というわけで本町に繰り出すことにした。下心があるわけではない、イイ店だと聞くのでちょっと行ってみようと思っただけだと自分に言い聞かす。
「えーと、メイドアン、メイドアンっと……。ん?これか?」
あった、メイドアン。しかし何かがちょっと違う、瓦葺きの古民家に縦書きの木の看板が一つ

   「明度庵」

 確かに『メイドアン』なのだがとっても和風ではないか。まあいいや、引き戸をひいて店の中へ。誰も出迎えることなく空いている座敷に座ると座卓の上にボタンが一つ。なんとも殺風景だ、本当にイイ店なのか?
「まあ、とりあえず……」ポチっとボタンを押した。
 すると……。

   「お呼びでございますか、ご主人様」

 静かに通る男の声、そして背中で人の気配を感じた。
「これは……」
「後ろを向いてはなりませぬ、ご注文を」
「それじゃあ、この『乙セット』を……」
「承知しました――」
 後の男が答えたと同時にうしろを振り返るとその姿はもうなかった。床の間の掛け軸がなぜか少し動いている――。
「なんなんだ、いったい」
 不思議に思い前を向き直ると『乙セット』が座卓の上に、そして背中に刀を背負って走り去る黒装束。

「お呼びでございますか、ご主人様」はメイドのセリフではなかったのか。日本じゃもっと前から使われてるやん。
 まさに忍のような素早さ、そして殿様の気分を味わえる。「イイ店」に認定。

作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔