ihatov88の小咄集
69座りたい 2/23
外回りの営業で今日はクタクタ。足が棒になるってこういうことを言うのだろう――。ああ、疲れた。休みたい、帰りたい、もう歩きたくない。
成果は別にして、今日まとめた報告書を本社までもって帰らなくちゃいけない。回り先が家の近くなのに、一旦会社に戻らなきゃならない。
「報告なんて明日でいいじゃん(どうせこの時間に帰社しても、みんないないじゃん……)」
と呟きながら、棒になった足にムチを打ち、最寄りの駅に向かう。会社ではもちろんそんな事は言わない。だって私はイエスマン。長いものには巻かれる、これ座右の銘。
改札口で定期を通し、階段降りて待ってる電車に乗り込む。席は空いている。ラッシュアワーにもかかわらず、席は空いている。
「ラッキー」
真っ先に席に座る。ああ、生き返った。会社まで乗り換えないでこのまま行ってやろう。だってもう歩きたくないもん。
発車を待っていると私の前に初老の女性が立ってこちらを見ている。席を譲るには微妙な年齢だ。声をかけると逆に怒られるかもしれない、それに自分の横にもいっぱい席があるじゃないか。何で私の前に立つのだ!これでは私が意地悪をしているように見えるではないか。
目のやり場に困って車内を見ると離れて座るおばちゃんや女子高生もこっちを見ている、私の何がいけないの?
「あの……、お兄さん」
「は、なんでしょう?」
優しく問い掛けて来たのは初老の女性。
「ここ『女性専用車』ですよ」
「あら、ごめんなさい」
恥ずかしいったらありゃしない。よく見たら乗ってるのみんな女性だ。
そして慌てて電車の外に出ると、
プシュー
電車は出発、次の電車は満員必至の快速電車……。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔