ihatov88の小咄集
72外された包帯 5/3
「さあ、もう大丈夫ですよ」
聞こえるのは先生の声。謎の病に冒され視力を失いはや数ヶ月。私はこの日が来ることをどんなに待ちわびただろう。
「それじゃあ、包帯をとりますからね」
看護師の声で顔に巻かれた包帯がゆっくり外される。私は息を呑んでこれまでの苦悩を振り返った。
当然奪われた視力。全く見えないまま病院に運ばれ、声しか聞こえない先生に
「厳しいですが、頑張りましょう。私も全力を尽くします」
と励まされ臨んだ手術。お世話になったが見たこともない先生に自分の将来を託した闘いが今まさに終らんとしている――。成功したらアナタは神だ。そうだ、神と崇めよう。だって声はカッコいいんだから。たぶんイケメンカリスマドクターだと勝手に想像。
これは……
包帯が外れた。しかし視界には何も映らない。以前と変わらぬ全くの闇世界だ。手術は失敗だったのか。
「ああ……」
ショックのあまり頭を抱えて目をふせた。手術したのに見えないなんて。
「もう、センセイったら……」
そんな落ち込む私を気にせずクスクス笑う看護師。甘ったるい声が余計に耳につく
「ごめんごめん、電気つけるの忘れてたわ」
パチッ
ガハハと笑う先生の声と一緒に電気が灯ると視界が一気に晴れた。目の前にいるのはずんぐりむっくりな体型の先生とこれまたずんぐりむっくりな体型の看護師。
ありがとう、一瞬ヒヤッとしたけど……。センセイ、アナタは神ドクターじゃなくて普通に人間だわ……。
作品名:ihatov88の小咄集 作家名:八馬八朔