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真朱@博士の角砂糖
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即興小説まとめ⑶

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気高い海風
(title 気高い海風)


先は、見えなかった。
空はこんなにも晴れ渡っているというのに、僕の目に見えるものは、なにもない。
僕は、果たして両の目を開けているのだろうか?果たして、己の体は前を向いているのだろうか?

向かう場所も帰る場所も無い僕はくらげのようにふわふわと自分の体の中を浮遊して、ただ、戻るための道を探している。
地に足を引き寄せようと重い鞄を強く握りしめてみたが、手のひらと指がじんじんと痛むだけだった。

視界は、青だ。
ふたつの青が視界の半分で綺麗に割れて、海のような空と空のような海を、僕の脳に突きつける。
空と海の狭間にいるのだ、僕は。

先は、見えない。
見えるのは、空と海の境界線だけだ。
ぼくはあの場所に辿り着いたとき、どうなってしまうのだろう。
きっと空と海に挟まれて、紙のように薄く、プレスされてしまうのだろう。

海と空は、浮遊するには広すぎる。

頬を撫でる海風に思う。
くらげのようなこの僕を、どうか陸まで運んでくれないか。

海風は自らのエネルギーで空と海だけのこの世界を駆け抜け、僕を笑う。
立ち止まることのできない、浮遊することのできないその姿の、なんと気高いことか。


僕は大きく息を吸い、体の中に海風を取り込んだ。