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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「一応は。ただ、この戦術で行くのであれば私も同行します。・・・というか、そうしないとマキスは説得できません。あの男は粗暴ですが、エーデルガルド様に捧げる忠愛は本物。リシエール勢を一切連れずに別行動を取るということは許さないでしょう。作戦の概要はもう一人の軍師に話をしておいて、マタイサに入ってからマキスに真相を伝えます。」
「・・・マタイサで暴れないかな?」
 真相を知った後のマキスの反応を想像して、エドが心配そうに尋ねる。
「大丈夫でしょう。あの男は粗暴ですが、エーデルガルド様のお立場を悪くさせるほど考えなしではありません。・・・粗暴ですが。」
 粗暴粗暴と本人に聞かれたら喧嘩になりかねないくらい何度も言いながらエリカが頷く。
「であれば、それがしも何人か連れて同行致しましょう。撤退戦の際にスカウトなしでは何かと不便ですので。残ったスカウトの指揮はグラール様にお渡ししますので、いかようにもお使いください。」
「うむ。承知した。」
「ちょっと!スカウトの指揮ならあたしが居るんだけど。」
 不満そうにそう声を上げるクロエを一瞥してクロウはため息をつく。
「・・・昨日も申し上げましたが、ご自重ください。クロエ様はエーデルガルド様と一緒に居ることを最優先に。」
 クロウはそれだけ言うと、他のスカウトへの連絡をつけるためにその場から立ち去った。
「ではエーデルガルド様。私もマキスを丸め込んでまいりますので、しばらくお待ちを。」
 そう言ってエリカもリシエール騎士団の方へと歩いて行った。




 クロウが直々に集めてきた情報はかなり正確であり、撤退前の初撃はエリカの指揮も相まってゴブリン達にとってかなりの痛手になった。
 アストゥラビの時以上に魔法に力を使ったエドはすでに行動不能になってソフィアの小脇に抱えられているものの、エドが当初予測していた300ではとどまらず、500以上のゴブリンを削ることに成功していた。
 また、総指揮官であるエドがいることで奮起したソフィア隊、アミサガン騎士団の活躍も当初の目論見以上で、それこそ最初にエドが描いた1000のゴブリンを削るという絵を彼女の想像に近い形で描くことができた。
 馬による撤退もソフィアの言っていたとおりゴブリンの足で追い付くことは出来ず、さらには唐突に馬を反転させて、個々の走る速度の差によって長く伸びたゴブリンの隊列を叩き、そこからまた逃げると言う事を繰り返しており、そこでもかなりの戦果を挙げている。
「軍師ってすごいよね。絶妙なタイミングで軍を反転させるんだもん。あそこまでされたらちょっとゴブリンに同情しちゃうなあ。」
 エドを抱えているため、エリカの指揮するもぐらたたきには参加していないソフィアが少し離れたところからエリカの指揮の様子を見て感心する。
「まあ、元々エリカはそういう家の子だからね。ユリウスと同じ歳だけど、もうすでに口や軍略じゃ誰も敵わないし、すごく頼りになるんだよ。」
 ソフィアのつぶやきに、小脇に抱えられたままの姿勢でエドが応じる。
「ユリウス君と同じ歳なんだね。そっか・・・じゃあもしかしてリュリュちゃんに強力なライバルができちゃった感じかな。」
「いやあ、それはないんじゃないかな。エリカは身体があまり大きくない事をコンプレックスに感じている所があってね。そういう事情もあって、エリカは自分に持っていない物を持っているマキスの事が大好きなんだよ。そういう意味じゃユリウスは貧弱だから異性としての対象にはならないと思う。」
「そうなんだ。でもそういうコンプレックスってよくわかるなあ。私も無駄に身体が大きいから、逆にちっちゃいものが大好きだし。」
「レオとか?」
「レオくんはちょっと身長は低いけど、男としてちっちゃくないもん。」
「たしかに、ソフィアとジゼルをお嫁さんにするなんて、ちっちゃい男だったら無理だね。」
「何の話?」
 エド達が居るところより少し先を見に行っていたクロエが戻ってきて楽しそうに話をしている二人に尋ねる。
「いや、レオが男として小さいかどうかって話。」
「そういえばクロエちゃんも前はレオくんのこと気になっていたんだよね。」
「う・・・いや、あれはソフィアとレオが結婚しているのを知らなかったからで。・・・あれ?そういえばなんでレオはジゼルと結婚しているの?あんたアストゥラビであたしに、『レオ君は譲れない』って言ってたでしょ。」
「だから前にちゃんと言ったじゃない。『一番じゃないならレオ君は譲れない。』って。グレンを別にすると、ジゼルちゃんにとって拠り所はレオ君だけだからね。それにレオ君が小さい頃からジゼルちゃんのことを好きだったのも知っていたから、知らない所で浮気されるより管理できる分マシかなって。」
 ソフィアはそう言って朗らかに笑うが、その笑顔を見たクロエは全く笑えなかった。
「・・・それじゃ、ジゼルもレオもあんたの手のひらの上ってわけ?」
「そうなるかな。わたしバカだから、コントロールできてないところって、気づかないからさ。怖いんだよね。」
 そう言ってソフィアがぺろっと舌をだしてウインクをするが、クロエだけではなく、エドも笑えなかった。
「怖いのはソフィアだよ・・・。」
「なんというか・・・レオやジセルにバレたら大変な事になりそうな話ね。」
「ジゼルちゃんは知ってるよ。それにレオ君はこれで侯爵になれる権利はもちろん、ジゼルちゃんと一緒になることで皇帝も狙える位置にいるんだよ。感謝されることはあっても恨まれるような覚えはないもん。」
「レオに限ってそういう権力を欲しがるとは思えないんだけどね・・・。というか、それをアレクの妻であるあたしたちの前で言うのはどうなの・・・。」
「・・・もちろん冗談だよ。」
「冗談に聞こえないよ!」
 と、そんな会話をしている三人の方に向かってエリカ率いる騎馬隊が駆けてくる。それを見たクロエとソフィアが先ほどまでと同様に合流のために馬を返そうとした刹那、エリカの前方の地面が盛り上がり、それに驚いたエリカの馬が急ブレーキをかけた。
 馬の背中から投げ出されたエリカは上手く落ち葉の折り重なったところに落ち、運良く怪我をせずにすんだものの立ち上がることは出来なかった。
 地面に打ち付けた身体が痛いわけではない。エリカは目の前に現れたそれのせいで身体がすくんで動けなくなっていたのだ。
 彼女の前に現れた、人の3倍の大きさはあろうかという、ホブゴブリンの恐怖によって。
 エリカのように投げ出されなかったまでも、ホブゴブリンの出現による恐怖は他の騎士やその馬たちにも伝染してしまい、誰もが態勢を整えることが出来ずにいる。
 そんな中、ホブゴブリンの目がエリカを捉え、ゆっくりと大木のような腕を伸ばす。
「ひ・・・ぃゃ・・・。」
 目を閉じ、必死に祈るエリカの恐怖を楽しむかのように口元を釣り上げて笑いながらホブゴブリンはエリカに触れる。
「女の子に触る時は、ちゃんと許可を取れよ。この化け物が。」
 吐き捨てるようなその声とともにブンと何かを振る音が聞こえ、その音の後、エリカは生暖かい液体のシャワーを浴びた。