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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「申し訳ありません。我が隊の手落ちで、伏兵を見落としておりました。ここより北に30分ほど行った所と北東に30分ほど行った所に約1000のゴブリンを発見しました。」
「・・・そう。」
 クロウの報告を聞いた三人の顔色が変わる。
「合計1000?」
「それぞれ1000とのことです。」
「合計2000か・・・。ソフィア?」
「さすがにその数は無理だと思うよ。隊の人間すべてであたっても、こっちの全滅と引き換えにかろうじて足止めできるかどうかだね。」
 一応の備えとして、今回デミヒューマンの殲滅にあたっているソフィアの隊はすでにエンチャントが終わっている装備を配られている人間で構成されている。しかし2000の軍勢と総当りをすることは想定されておらず、人数も50人ほどしかいない。しかもそこですべての人員を消耗してしまえばその後に敵の後詰があったときに対応が取れない。
「・・・かと言って、住民の護衛につけているリシエール騎士団とマタイサ騎士団をそっちに回してもどこまでできるかわからないし、武器と防具の備えもまだできていないからなあ。」
 デミヒューマンの中でも下級に位置するゴブリン相手であれば普通の武器や防具でも戦えないことはない。さらにリシエール騎士団、マタイサ騎士団を合わせれば数は互角以上になるので、数の上では分の悪い戦いではなくなる。
 しかし、ソフィア隊全滅以上の人員を失うことになってしまい、その後の警戒や隊列。護衛に不安が残ることになる。
「伏兵に気付かなかった理由は?」
 クロエが詰問するような口調でクロウに詰め寄る。
「・・・ジュロメとアミサガンを分断された時同様にトンネルを掘られたようです。」
 デミヒューマン達の軍勢はトンネルを掘ることで突然アミサガンとジュロメの間に現れることができた。それは敵の軍勢が現れた後にクロエ隊の必死の偵察によってもたらされた情報だった。
「クロウ。北東と北っていうことは、前は大丈夫なんだよね?マタイサまで一気に走り抜けることは可能?」
「はっ。西への街道はすべて確保済みでありますれば。しかし鍛錬を積んでいるわけではない市民の足で一気に駆け抜けるのは少々厳しいかと。」
「そっか・・・、誰か伝令を。ジャイルズ卿とグラール侯をここに。」
 エドがそう言って手をたたくと、すぐに伝令役の人間が馬を走らせる。
「どうする気?」
「殿軍に、殿軍の役をしてもらおうと思う。」
 クロエの問いに、エドは短くそう答えた。
「アミサガン騎士団を犠牲にするってこと?」
「いいや。デールさんたちには護衛についてもらう。」
「護衛・・・・?」
 首をかしげるクロエとは対照的にソフィアはなにか思いついたらしく、大きく肩を落としてため息をついた。
「・・・それ、駄目だと思うなあ。」
「多分、私が本気でやれば300位ならなんとかなると思うんだよね。」
「残り1700。わたしは頑張っても精々100から150くらいだよ。それ以上は多分魔法が持たない。隊の皆は、一人で10くらいはなんとかなるかもしれないけど、それだってかなり楽観的に見た数字だからね。けが人や犠牲も出るだろうし、実際に分担できる数はもう少し少ないと思うよ。」
「はい。残り1000。クロエは?」
「クロエは、って・・・まさかあんたたち、自分たちで足止めをするつもり?」
「うん。それが結果的に一番被害が少なくなると思う。」
「下手をしたら致命的な被害が出る可能性があるでしょうが!」
 しれっと言い放つエドにクロエが噛み付く。
「クロエちゃんに全力で賛成したいところだけど。でも・・・まあ、ドンとぶつかってすぐ退くなら、効果的かもしれないよ。狭い所でわたしの隊とアミサガン騎士団で受け止めて、敵の真ん中にエドの魔法をドン。敵が混乱した所で全力で撤退。騎士団もわたしの隊も全員騎馬だからゴブリンに追いつかれることはまず無いと思うし、さっきの仮定の話みたいに1000削るのは無理だとしても500削れれば敵の戦意は削げると思うからね。」
 ソフィアがそこまで話終わった所で、伝令に呼ばれたグラールとデールがやってきた。二人が来るとすぐにエドが地図を広げ、現在の状況を細かく説明し、方針を二人に説明する。
「むぅ・・・2000のゴブリンか。」
 話を聞いたグラールが苦虫を噛み潰したような表情で腕組みをして考えこむ。
「ソフィアの案が妥当かと思いますな。エーデルガルド様の仰るような殲滅戦は無理です。」
 デールはハッキリとそう言い切った。
「ただ、1点だけ訂正を。エーデルガルド様達は本隊と共にお逃げください。殿軍はアミサガン騎士団というお約束。その役目を奪われてはアンジェリカに合わせる顔がありません。」
「その約束はアレクがアンジェリカと二人で勝手にしたものだよ。私は知らない。」
 しれっとそう言い放ち、エドが立ち上がる。
「グラールさん、本隊の指揮をお願いします。アミサガンの住民を連れてできるだけ全力でマタイサに向かってください。先触れは出してありますけど、私よりもグラールさんのほうがスムーズに入城できるでしょうから。入城したら、その後はゴブリンに対する備えを。」
「・・・わかった。アミサガンの住民は責任をもって私がマタイサに送り届ける。」
 グラールが少しでも騎士の気概を持つ男であったのならば、エドの言葉を突っぱねて自分が残ると言ったのかもしれない。だが、彼は騎士ではなく、臆病でそれでいて頭が良い。彼は今ここでそんな言い争いをしたところで意味がないと言う事をすぐに悟った。
「よろしくお願いします。さて・・・後はリシエール騎士団の説得か。誰を言いくるめるのがいいかなあ。順当に行くなら、マキスだけど・・・。」
 エドはそう呟いて、現在シエルに代わって騎士団を率いている男の顔を思い浮かべる。
「頭固いからなあ・・・エリカに宥めすかしてもらって騙すかなあ。」
 少し考えて、エドはマキスの副官であり、軍師でもある少女を説得することに決めた。彼女も忠誠心が高くやすやすと説得のできる相手ではないが、頭が堅く話を聞かないマキスよりもいくらか与し易いと考えてのことだ。
「誰か、エリカを呼んできてくれないか。」
「・・・ここにおります。」
「うわああああっ!」
 エドのすぐ後ろから声が聞こえ、エドは驚いて叫び声を挙げた。
「お、驚かせないでよエリカ。」
「なにか危急の事が起こったようにお見受けしたものですから。・・・すみません。存在感がなくて。」
 そう言って前髪で目元が全く見えない少女は深々と頭を下げた。
「いや、存在感がないってことはないけど・・・全部聞いてた?」
「はい。あまり的はずれな戦術を立てるようであればお諫めしようかと思っておりました。」
「・・・ってことは。」
 エドの言葉にエリカはゆっくりと頷く。
「基本線は間違っていません。ソフィア殿の言うように。出会い頭の一発の後、即離脱。後は追いつかれそうになったら陣形を整えてもう一度。といったところでしょうか。普通の軍隊での戦ではまず用いることはできませんが、エーデルガルド様もソフィア殿も普通ではありませんから。」
「それ・・・褒められてるんだよね?」