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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「スカウト隊、出るぞ。」
 レオの掛け声に、全軍団からよりすぐられた武闘派のスカウト達が鬨の声をあげで馬の腹を蹴った。
 レオの隊の任務は恐らく数は少ないが散発的に現れるであろうデミヒューマン達の殲滅と本隊の進路確保だ。
 アミサガンの城門からレオの隊が出陣した後、しばらくして住民達の隊列の後からアレクシスのいる本隊が姿を表した。
「じゃあアレク、気をつけてね。わたしはここでソフィアたちと合流するから。」
「ああ。エドも気をつけて。クロエにも無理をしないように言っておいてくれ。」
「うん。わかった。」
 アレクシスは、自分の隊の指揮をとるために見送りに来られなかったクロエに対する言付けをエドに頼むと、イデアに向かう隊と共に街道を遠ざかっていく。
「しばらく離れ離れかあ・・・。」
「しばらくって言ったって、お父様が戻ってくるまでだし、一月も離れないでしょ。その後は大攻勢で一気に片をつけるんだから。」
 アレクシス隊の後ろから姿を表したのは、ジゼルの率いるイデア騎士団。ジゼルの傍らには護衛として騎士団長のヴィクトルと、衛生兵を束ねる大隊長であるカーラも控えている。しかし、ジゼルはなぜか馬に乗っていなかった。
「・・・ま、合流出来て落ち着いたら、レオとあたしの婚礼がわりにささやかな宴を開くつもりだからその時はちゃんと出席しなさいよ。」
「もちろん参加するよ。・・・ジゼルも気をつけてね。」
「あなたもね。」
 そう言葉を交わして握手をすると、ジゼルはカーラの駆る馬に横座りで乗った。
「あれ?ジゼル。自分の馬は?」
「いやその・・・ちょっと腰が痛くて。」
「腰?」
「・・・察しなさいよ。」
 顔を赤くして呟くジゼルの様子からエドはなんとなく事情を察した。
「ああ・・・なるほど。カーラさんの魔法でも治らないものなの?」
「こういうものは無理に治すものではありませんよ。それに反省させるためにも治すべきではないでしょう。・・・まったく。出立の前日に何をしているのだか。アンドラーシュに言って、ちゃんと叱ってもらったほうがいいかもしれないわね。」
「え・・・お父様に言うのはちょっと・・・。それについては三人そろってからちゃんとレオから報告するから。」
「冗談よ。ただ、次に同じようなことがあれば容赦なく報告しますからね。」
 そう言ってカーラは苦笑交じりにため息をついた。
「あはは。・・・カーラさん、ヴィクトルさん。ジゼルとアレク。それにリュリュとユリウスのこと、お願いします。」
「承った。」
「エーデルガルド様もお気をつけて。」
 そう言ってエドに一礼すると、二人はすでに通りすぎてしまったイデア騎士団の先頭に向けて馬を走らせた。
 エドがその後も何人かの顔見知りの将や兵士。街の住民と挨拶をかわしていると、リシエール騎士団の半数を率いてユリウスとリュリュが城門に現れた。
「おーい、エド。」
「あ、リュリュ。それにユリウス。」
「なんで僕のほうがおまけみたいな扱いなんでしょうか。」
「だってリュリュのほうがかわいいし。」
「それだと僕が可愛げないみたいじゃないですか。」
「あー・・・可愛くは、ないよね。」
「・・・・・・。」
「そんな顔をするではない。貴様が可愛くないことなど皆知っておる。のう皆の者。」
 そう言ってリュリュが周りにいた兵士に同意を求めると、黙って頷くもの、声をあげて囃し立てるものなど様々であったが、ユリウスを小馬鹿にしたような態度のリュリュに対する抗議の声などはあがらなかった。
「・・・正直、リュリュをリシエール騎士団に任せるって決まった時は少し心配していたんだけど、大丈夫そうだね。」
「うむ。なんといってもリュリュはかわいいからのう。さっきも、ハーモン卿から菓子を貰ったぞ。」
「え・・・ハーモンから?大丈夫?毒とか入っているんじゃ・・・。」
 ハーモンは、リシエールの旧臣の中でもガチガチの保守派で、グランボルカ嫌いで有名な男だった。リュリュがそのハーモンから菓子をもらったと聞いてエドは少し不安になる。
「ハーモン卿が菓子をくれるのは別に今回が初めてではないから大丈夫じゃぞ。リュリュが本気を出せば年寄りを誑し込むくらいは容易なことだからのう。リュリュは魅力的だからハーモン卿もデレデレじゃ。」
 リュリュはそう言って馬の上で得意気にふんぞり返って胸を張るが、エドはハーモンにリュリュと同じくらいの孫がいた事を思い出した。
(まあ、これは言わないほうがいいかな。)
「・・・なんにしても、馴染んでくれたみたいでよかった。ユリウス、リュリュのことをお願いね。リュリュも面倒な弟だけどユリウスの事よろしく。」
「うむ。任せておけ。」
「・・・なんだか、そこはかとなく納得が行かないんですけど。」
「気にしない気にしない。」
「姉さんも、ソフィアさんやクロエさんに迷惑をかけないでくださいよ。」
「わかってるって。・・・じゃあ、二人共行ってらっしゃい。」
 リシエール騎士団の先頭である二人を止めてしまったことで後ろがつかえていることに気がついたエドは、挨拶を手早く済ませて手を振る。
「うむ・・・エーデルガルド義姉様もお気をつけて。」
「くれぐれも、無茶をして怪我なんてしないでくださいよ。」
 二人は少し姿勢を正して一礼をするとリシエール騎士団を率いて馬を歩かせ始めた。
 最後に現れたアミサガン騎士団の先頭にはアンジェリカが居た。
「アンジェ。」
 エドがアンジェリカに声をかけると、アンジェリカは行軍を止め、慌てて馬を飛び降りてその場にひざまずく。
「エーデルガルド様。このような所で一体何を?」
「え?皆の見送りだけど。」
「そんなことをなさらずとも。・・・というか、できればお控えくださいと申し上げたいところです。」
 アンジェリカは最後のほうはヒソヒソとエドにだけ聞こえるくらいの声で言った。
「大丈夫だよ。ここは皆が通るから敵が仕掛けてきてもなんとかなるし。」
「そういうことではありません・・・。エーデルガルド様はもうすでにアレクシス様のお妃様。つまりこの国にとっても大切な方なのです。その方が門で軽々しく見送りなど・・・激励であれば出立前に将を呼び立てていただければよろしいのです。」
「でも、ここで済ませるのが一番確実だし効率もいいよね。」
 そう言って全く悪びれる様子もなく笑うエドの笑顔を見て、アンジェリカは心の中で一つため息をついた。
「・・・それはそうですが。威厳というものも大事にしていただきたい。」
「まあ、アレクと結婚しても私は私だからね。私のやりかたでしかできないんだ。ごめん。」
「あ、頭を下げないでください!」
「あはは、ごめんごめん。・・・アンジェ。」
「はい。」
「皆をお願いね。もちろんアンジェも怪我しないように。」
「はっ。命に替えても。・・・では、失礼致します。」
 アンジェリカは自分の胸に手を添えてそう答えると、馬に飛び乗って兵たちに檄を飛ばし、少し離れてしまったリシエール騎士団を追って走りだした。
「ああ、やっぱりここに居た。」
 そう言って本来の位置からは大分先行して。・・・というよりは一番先頭のクロエと並んで城門に現れたソフィアがため息をつく。