グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫
アリスがそう唱えて目を開けると、白いもやの中から鳥というには大きすぎる物体が現れる。
「何・・・あれ。」
エドが驚愕する横で、テオが「ハッハッハ」と声をあげて笑う。
「あれがアリスのもう一つの魔法じゃよ。異なる世界の異なる理の武器や道具。時には英雄まで呼び出しおる。それがアリスのもう一つの魔法。そして・・・」
「異なる世界の兵器、道具、英雄よ。汝の世界、理へと帰れ!我は汝を送り届けるものなり!」
クロエがそう叫び、アリスの呼び出した鐵の鳥を指差すと、鐵の鳥はみるみるうちにクロエの頭上の黒いもやへと吸い込まれていく。
「あれがクロエのもう一つの魔法じゃ。あの姉妹は呼ぶ力と送る力。対となる魔法を十一年前に手に入れた。」
「後天的な魔法・・・?でも、そんな話聞いたことがない。」
「確かに普通は起こり得ないことだ。だが、あの二人の魔法は特別な魔法でな。魔法の持ち主が死ぬとふさわしい持ち主の所へと飛んでいく。そういう魔法なのじゃ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
少し離れた所でシエルとオデットと共に試合を見ていたエリカがそう言って頷く。
「18年前に行方不明になった二人の姫がアリス殿とクロエ殿。先代のアミュー王が亡くなられた時にその魔法が分散して二人の身に宿ったということですね。」
「そういうことだな。ジュロメ防衛の後でいきなりアミューに行くなんて言い出すから何かあるんだろうとは思ってたけど、こういう隠し球を持っていたってわけだ。」
「やっぱり気づいていたんですか。」
「気づいていたっていうのはちょっと違うな。アリスとオデットが何か隠しているなとは思っていたけど、まさかアリスがこの国の第一王女だったとは思ってなかった。だからこれでも驚いてるんだぜ。まあ、でもこれでアリスがこの国を支配する上での問題はなくなったっていうわけだ。」
「ええ、旧臣の中でも特に保守的なヴォルカン将軍と南の女王オリヴィエ様にアリス達の能力を見せつけ、納得をさせるための舞台。それがこの試合です。ロチェス王には予め話してあったのですが、一度ロチェス派としてついてしまった以上、オリヴィエ様には口頭よりも実際に能力を見て納得させるほうがいいだろうというのがアリスの考えです。」
「どうせテオも知ってたんだろう?酷えなあ、それなりに長く一緒に旅をしてきてるっていうのに、俺だけ仲間はずれかよ。」
「シエルさんの事が信用出来ないっていうのは、私も少し理解できるところでしたから・・・。」
「俺、お前の恋人だよな?オデットにそういう事言われちゃうと俺の味方が誰もいなくなっちゃうんだけど。」
「そうは言いますけど、シエルさんだって、私の事、『ユリウスとアリスが別れる時に口添えするための報酬としてあてがわれたんじゃないか』って疑ってたじゃないですか。正直むっとしましたよ。」
「・・・それ、口に出して言ったっけ?」
「いえ。でも何だか微妙な表情をしていたので、エリカさんに相談したんです。そうしたらどうせそんなことを考えていたんだろうって。」
「・・・エリカ?」
「まあ、カマかけでしたけどね。状況を考えれば意外とウジウジした性格のシエルさんはそんなこと考えるんじゃないかなぁと。」
「怖っ!本当に怖いわお前。・・・まあ、でも確かに俺はそういう風にオデットの事を疑った。それは謝るよ。」
「私もシエルさんの事を騙すような形になってしまって、ごめんなさい。」
「じゃあ、こちらもこれで仲直りということでよろしいですね?」
エリカの確認にシエルとオデットは一度見つめ合ってから頷く。
「別に喧嘩してたってわけでもないけどな。・・・でもまあ、ユリウスの説得は俺がやるしか無いんだろうな。エドじゃ無理だろうし、ヘクトールさんは口下手だからなあ。」
異世界から兵器を呼び出すアリスとそれを送り返すクロエ。ちょうど5回めのその攻防を終えた時に、二人の魔力が尽きて殴り合いになった。
そうなってくると、二人の実力は拮抗しており、お互い武器を拾う間もなく戦闘を行い、程なくしてクロエのハイキックと、アリスのストレートが同時に決まり、二人はそれが合図であったかのようにその場に崩れ落ちた。
二人の試合が続行不可能となったところで、アリスはテオが、クロエはエドが抱き上げて試合場から外に出た。
そして、簡易寝台の上に二人を寝かせ介抱をエドに任せてテオがロチェスとオリヴィア、それにヴォルカンに向き直る。
「さて、南の女王オリヴィエ、北の王ロチェス。アミューの忠臣ヴォルカンよ、二人はこの国の王たる資格を披露した。余は二人をこの国の王として迎え、一度そのもとに北と南を統合することを提案するがどうか。」
「私には異論はありません。クロエ様・・・クロエ姉様ならば、この国をきっとまとめ上げてくれると信じられます。」
「僕もアリス姉様に万事お任せしたいと思います。僕もオリヴィエもまだまだ半人前です。お二人ならばきっと良き国にしてくれると思います。」
「ヴォルカンよ、貴殿はどうじゃ?」
「・・・・・・。」
テオの問いに、ヴォルカンは俯いたまま答えない。
「不満か?」
「・・・生きて、おられた。アリッサ様とクレア様が。不満などあるはずがありません!あの日お守りすることができなかったお二人が生きておられた!このヴォルカン、今度こそ命を賭してあ二人を守る所存!」
そう言って顔を上げたヴォルカンは両目から大粒の涙を流し、男泣きをしながらそう言った。
「よし、ならばこれで本当にアミューの内乱は一件落着ということじゃな。」
テオはそう言って満足そうに笑うとうんうんと頷いた。
作品名:グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫 作家名:七ケ島 鏡一