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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「いいえ。私の魔法はロチェスのように『見る』魔法ではありませんから戦う姿は見えません。でも、お二人の戦う音を『聞く』ことはできます。お二人の戦いは動きだけではなく息遣いや汗の流れる音まで、全てがオーケストラのように大胆でありながら、ヴァイオリンのソロのように繊細でもあり・・・とてもきれいな音を奏でています。」
「そういう感じ方もあるんだね。」
 目を閉じて「ふぅ・・・」と溜息を漏らすオリヴィエを見て、エドが微笑む。
「ねえ、オリヴィエ。オリヴィエはああいう音を奏でたいと思わない?」
「私にはあんな素敵な音を奏でるような体捌きはできません。」
「音楽だって協奏曲や交響曲。オラトリオやカンタータなんかがあるじゃない?オリヴィエに奏でられる音楽で、人を感動させられる音楽を奏でてみたいと思わない?」
「私にできることなど・・・。」
「あるでしょう。南の女王と北の王が手を取り合えば。この国を収めるための素敵なワルツを奏でることができるんじゃない?」
「・・・ですが。」
 エドの言葉を聞いたオリヴィエはそう言って露骨に顔をしかめた。それを見たエドは苦笑しながらオリヴィエの頭を撫でる。
「気持ちはわからなくないけど、オリヴィエはロチェスとちゃんと話をした?」
「・・・あの男と話すことなどありません。奸臣にたぶらかされ、国を割り私を侮辱したあの男と話すことなど・・・。」
 眉をしかめるオリヴィエの頭をポンポンと軽く叩くように撫でながらエドが苦笑する。
「ロチェスは本当にたぶらかされていたのかな?結局、オリヴィエとヴォルカンさんでは南アミューをまとめきることができなかったんだよね?もしかしたら、ロチェスはイスヴェルグを利用しようとしていたんじゃないかな。」
「エーデルガルド姉様は人が良すぎます!あの男に限ってちゃんとそんなことを考えていたとは思えません!」
「思えません。なんだよね。それって、『聞く』魔法の持ち主としてはどうなのかな。オリヴィエはちゃんとロチェスの話を『聞く』べきなんじゃないかな。」
「・・・・・・。」
「私にも弟がいるけど、何を考えているかなんて解らないよ。最初はアレクやリュリュと仲悪かったのにいきなり仲良くなってるし、突然アリスとお付き合いをしだすし。いつの間にかたくましくなってるし。」
 エドはそこで言葉を切り、膝を曲げてオリヴィエと視線の高さを合わせる。
「ユリウスのことを一番良くわかっているのは私だと思ってたけど、わからないことだらけになってきちゃって寂しかった。でも、私の気持ちを話してユリウスの話を聞いたら、その寂しさや不安はなくなった。オリヴィエ、私はね、相手のことをわかったつもりになって、相手を自分の枠に嵌めちゃうっていうのは、一番良くないことなんだと思う。だから、オリヴィエにはきちんとロチェスの話を聞いてみて欲しいな。」
「ロチェスの話・・・。」
 そう言ってオリヴィエがロチェスの方を向くと、二人の視線が交錯した。
「行っておいで。」
 そう言って、エドがオリヴィエの背中を軽く押した。
「・・・はい。」
 オリヴィエはエドの方を振り返ること無く一度頷くとロチェスの方へと歩き出す。
 ロチェスもオリヴィエの姿を見てこちらへ歩き始める。
「・・・久しぶりだね、オリヴィエ。」
 二人の距離があと二歩という所まで近づいたところでロチェスが口を開く。
「そうね。」
 オリヴィエは短く応じた。
「その・・・ごめん。」
「え?」
「・・・僕が上手くできなかったから、イスヴェルグに北アミューを乗っ取られるような形になって、オリヴィエにもヴォルカンにもすごく迷惑をかけたと思う。」
「わ・・・わかってるなら、別に。・・・その、私の方こそごめんなさい。」
「え?なんでオリヴィエが謝るんだ?」
「・・・なんとなくは気づいてたの。お父様が亡くなられて、ロチェスが頑張ってこの国を治めようとしていたことも、そのためにイスヴェルグをなんとかしようとしていたことも。でも・・・ロチェスが何の相談もしてくれないから、それが悔しくて悲しくて。それで、ヴォルカンも巻き込んで、ロチェスに反抗するようなことをして。本当は、ロチェスと一緒にイスヴェルグを何とかしなきゃいけなかったのに。・・・ごめんなさい。」
 そう言ってポロポロと涙をこぼすオリヴィエは南の女王ではなく、歳相応の少女の顔だった。そして、オリヴィエにつられて泣かないように下唇を噛んで涙をこらえるロチェスの顔もまた、歳相応の少年の顔だった。
「ふむ。では、これで北と南は手打ちかのう。」
「そうですね。」
 いつの間にかロチェスとオリヴィエの後ろに立っていたテオとエドがそう言って笑う。
「しかし、相変わらずアリスは手回しがいい。エーデルガルドにオリヴィエの説得を頼んでいるとは。」
「いえ。頼まれていませんよ。オリヴィエを説得したのは私がそうしたほうがいいと思ったからです。でもまあ、アリスがそれも含めて読んでいたっていう線はありますけど。」
「確かにその線も無くはないが、もともとのアリスの作戦は違っていたからのう。エーデルガルドが説得を頼まれていなかったのなら、これは儂とエーデルガルドが偶然二人を説得したということじゃろう。」
「そうなんですか?じゃあアリスの元々の作戦ってなんなんですか?」
「アリスの狙いは、アミューの支配じゃよ。」
 テオはそう言って朗らかに笑ったが、それを聞いたエド達はあまりのことに言葉を失った。

「さて、では私もクロエも暖まってきたところで、そろそろ始めましょうか。」
 アリスはそう言ってクロエから距離をとると、パチンと指を鳴らした。
 すると次の瞬間、アリスとクロエの衣装が普段のそれとは別の、見慣れない民族衣装のようなものに変わる。
「ちょ・・・ちょっと何よこの格好!」
「舞台に立つ人間には衣装が必要だって、父さん達が言っていたでしょう」
「確かに言ってたけど、これ旅芸人の衣装じゃないでしょ!それにここは舞台じゃない!」
「舞台よ。私たちがこの国を支配するための第一歩となる重要な舞台。」
「な・・・何言ってるのよ!あんた本当に頭がおかしくなったんじゃないの!?」
「おかしかったのはこれまでの事よ。まあ、本当だったらロチェスやオリヴィエに任せておいても良いのだけど、もうあまり時間もないし、私達でいただいちゃいましょう。」
「いただいちゃいましょうって・・・やっぱりあんた頭がおかしいわ!この国はオリヴィエ達のものよ!」
 クロエのそんな言葉など聞こえないかのようにアリスは両手をあげて天を仰ぐ。
「北の王ロチェス、それに南の女王オリヴィエよ!刮目しなさい、そして自らの矮小さを恥じなさい!」
 アリスがそう言って目を閉じると彼女の頭の上を中心に白いもやのようなものが渦を巻き始める。
「ちょっ・・アリス!あんた一体こんなところで何をする気よ!」
 クロエはそう叫ぶと持っていた武器を捨て、アリスと同じように手をあげ目を閉じる。するとクロエの頭上にはアリスのものとは対照的な黒いもやが渦巻き始めた。
「異世界の空を駆ける鐵の鳥よ、その疾さ、鉄の雨で我が敵を討て。・・・我、紫の光で敵を討つ稲妻の力を欲するものなり!」