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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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 結局引き分けとなったシエルとヴォルカンが退場した後に試合場に出てきたアリスに一瞥をくれて、クロエも試合場にはいり無言のまま自分の得物であるミスリル製の扇をかまえた。
「あら、それがクロエの新しい武器?へえ、結構良いものみたいね。」
「セロトニア武器商会の頭領が直々に作ってくれたものが悪いものなわけないでしょう。」
「あら、確か予定ではルチアさんは、エドとアレク。それにリュリュ様とジゼルを優先すると言う話ではなかったかしら。」
「その予定だったけど、先に作ってくれたのよ。四人の武器は時間がかかりそうだからってね。」
「・・・あらあら、それってもしかして手抜きされたんじゃないの?」
「そんなことないわよ!本当にあんたはあたしの腹のたつことばかりよくもまあそんなに思い付くわね!」
「別に怒らせたいわけではないのだけどね。」
 アリスはそう言って武器を構えているクロエの目の前で腰にくくりつけてあったフレイルを投げ捨てた。
「ふうん。本気って訳。」
 無手で構えるアリスを見てクロエが息を飲んだ。
「だって本気でやらないと今度はその事で怒るでしょう?」
 緊張感を漂わせるクロエと対照的にアリスがニコニコと笑顔を浮かべる。
「上等よ。」
 クロエはそう言ってアリスの突撃を警戒しながら扇とチェーンで繋がっている短剣を抜く。
「面白い武器ね。一体どんな仕掛けが施してあるのか楽しみだわ。」
 アリスはそう言って高く飛び上がると大きく息を吸い込んで発声する。イデアでの戦闘とは違う、歌ではないただ単純な発声。それは姉が妹を驚かそうと後ろから声をかけたときの、「わ!」とも、「あ!」とも聞こえる声だ。
 ただし彼女の魔法であるその音は無邪気ないたずらとは違い、力をもってクロエに迫る。
 しかしクロエはアリスの魔法を慌てて避けるでもなく、構えていた扇をあおぐようにして優雅に動かす。
「なるほど、抗魔法がその武器の特性って訳ね」
 着地したアリスは魔法がクロエに届かなかったことなど何も問題がないといった感じで解説するが、それを聞いたクロエは口の端をつり上げて笑う。
「だと、いいわね。」
 そう言ってクロエが短剣をアリスに向けた次の瞬間、アリスを強い衝撃が襲う。
「・・・吸魔と解放、ね。ルチアさんたらずいぶんと危ないおもちゃを作ってくれたものだわ。」
 クロエから返された自分の魔法で数メートル飛ばされたアリスは服についた土をパンパンと払い、立ち上がりながらそう言った。
「手抜きなんかじゃないってわかってもらえた?これからはあんたに大きな顔させないわよ。」
「これからは。ねえ。」
 クロエの言葉を聞いたアリスが大きなため息をつく。
「ねえ、クロエ。あなたちょっと考えが甘いんじゃないの?なんで私が今までと同じようにあなたのそばにいると思っているの?私は狂王バルタザールと行動を共にしている女よ。」
「でも、バルタザール様は正気だってエドが・・・」
「仲良しこよしで本当に大切なものが守れるの?エドが大丈夫だと言ったらあなたが警戒しなければいけないのよ。それが二人でアレクの妻になるということ。少なくとも自分の目で確かめたわけでもないことを鵜呑みにするなんて、アレクの妻失格よ。」
 アリスの言葉はクロエの頭を鈍器のように強く殴りつける。
「妻・・・失格・・・。」
 頭を金槌で殴られたようなアリスの言葉を聞いてクロエの視界が揺れる。
「そう、失格よ。あなたがいないほうが、アレクのためなんじゃないの?エドだけいれば大丈夫なんじゃ――」
 アリスが言いかけた時、一陣の風が二人の間を吹き抜け言葉を遮った。
「聞いちゃだめだクロエ!アリスの魔法だ!」
 エドの叫んだ言葉を聞いて、呆然としていたクロエの目に光が戻る。
「クロエが必要ないなんてことはない!わたしにもアレクにもクロエは必要なんだから!」
「・・・っ、大声で叫ばなくてもわかってるわよ!」
 クロエはそう言って頭を振ると睨むようにしてアリスを見据える。
「今の反則じゃないのかしら。」
 アリスはクロエの視線など気にした様子もなく、エドに向ってそう言うが、エドもアリスの言葉などどこ吹く風というように肩をすくめてみせる。
「何のことかわからないなあ。それに、アリス以外は何も言ってないけど。」
「・・・ま、いいわ。こんなことで勝っても仕方がないし。」
 そう言って薄く笑った後、アリスは改めてクロエに向き合う。
「魔法を吸ってそれをリリースするなら、魔法で攻撃をしなきゃいいだけだものね。」
 両腕を胸の高さまで上げたアリスが地面を蹴ってクロエの方へと跳ぶ。
 クロエもそれを読んでおり、後ろに跳んで距離を保とうとするが、アリスの踏み込みのほうが早く、拳がクロエの顔面に迫る。
「もらったわ!」
 全く躊躇せずに振りぬいたアリスの拳は、しかし空を切った。
「コッチのセリフよ!」
 空間転移で移動したクロエはそう言ってアリスの背中に踵を振り下ろすが、今度はアリスが素早いステップでクロエの視界から消える。
 一連の攻防で舞い上がった土煙でアリスを見失ったクロエはすかさず再度空間転移でその場を離れ、次の瞬間、土煙の中から現れたアリスが直前までクロエのいた所に向って再度拳を振りぬく。
 二人で舞を舞うようにして繰り返される攻防。決定打こそないものの、二人の動きを追うのは至難の業だ。
 実際、この場に居るほとんどの人間が目で追えていない。
「すごい・・・。」
 試合を見ていた北の王、ロチェスがそう言ってゴクリと唾を飲み込んだ。
「ほう、見えているか。その若さでなかなかの目を持っているようだな。」
 ロチェスの隣で二人の戦いを見ていたテオが笑う。
「『見る』ことが私の魔法ですから。」
「なるほど。では北の王ロチェスよ。あの二人の戦いをどう見る?」
「真剣に戦っていながらも、どこかおもいやりがあるような・・・。」
「手を抜いているように見えるか?」
「いえ、そうではなくお互い『本気を出しても大丈夫』という安心感のようなものが伝わってきます。」
「姉妹だからのう。」
「それは知っていますが。」
「『血がつながっているからといって、あんなに信頼しあうことなどできない。』かのう。」
「・・・・・・。」
「まあ、儂が言うことではないが、儂はアレクシスを信頼しておるぞ。アレクシスはきっと儂を討つ。そして、素晴らしい皇帝になれる。そう信じておる。」
「・・・子に殺されると信じることが信頼ですか?」
「そういう捻くれた信頼の形もあると言うことだ。アリスとクロエ。あの二人の間にある信頼も複雑で捻くれておる。アリスはクロエならばアレクシスを守ってくれると信じておるし、クロエはアリスならば儂を正気に戻せると信じておる。」
「・・・・・・。」
「それは、儂らが共に過ごした時の中で、お互いのことを良く見て、理解しようとした結果だ。ロチェスよ、お前は妹のことをきちんと見たか?」
「オリヴィエのことを・・・」
 ロチェスはそうつぶやきながらオリヴィエの方へ視線を向けた。


「・・・綺麗。」
 ロチェスとテオから少し離れた所で試合を見ていたオリヴィエが感嘆のため息を漏らす。
「オリヴィエも見えているの?」