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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「そうそう、その頭の固いマキスのお父さんは最近リュリュにデレデレなんだよ。」
「ハーモンの親父さんは孫娘を溺愛してるもんな。今は会えないからその分の愛情ががリュリュ皇女に流れてるってことか。あの爺も耄碌したなあ。」
「あの・・・シエルさんはハーモン伯とはご親戚か何かなのですか?」
 リシエールの重鎮であるハーモンに対して遠慮のない物言いをするシエルに対してオデットが尋ねる。
「親戚っていうか・・・オデットはリシエール6伯は知ってるか?」
「はい。ブライトマン家、ハーモン家、ビンデバルト家、クロンヘイム家、ギュンター家、それにフェルツマン家ですよね。」
「フェルツマン家の今の頭首が俺。」
「め・・・。」
「め?」
「メチャメチャ貴族じゃないですか!え?ちょ・・・」
「ちなみにエリカはクロンヘイムの頭首な。」
「し、知らぬこととは言え大変な失礼を・・・」
 そう言って取り乱し、先ほどと同じように地面に平伏すために馬から飛び降りようとするオデットの胴にシエルが腕を回して阻止する。
「そういうのは気にしなくて良いって。俺もエリカも人生の半分は平民だったんだから。それに、大した資産もなくて正直今は貴族でも何でもねえよ。便利だから便宜上名乗りに使うことはあるけどな。」
「そうですね。私も最近までイデアの市場で野菜売っていましたし。シエルさんは何でしたっけ?」
「俺、お前の隣の屋台で肉売ってたんだぞ。なんで覚えてないんだよ。」
「あれ?魚じゃなかったでしたっけ?」
「斜向かいの魚屋はマキスだろ。」
「・・・とまあ、このように完全に庶民なので名前や家の事は気にせず仲良くしてもらえると嬉しいです。」
 エリカがそう言って肩をすくめて笑うがオデットとしてはそう言われてもハイそうですかというわけにも行かず対応に苦慮する。
「はぁ・・・でも。」
 そう言ってオデットはシエルの方をチラリと見た。
「あ、リシエールが再興できれば一応伯爵だからオデットが一緒に肉売る必要はないぞ。楽な暮らしとはいえないかもしれないけど食うに困るようなことはない・・・と思う。・・大丈夫だよな、エド。」
「私はもうグランボルカの人間だからなんとも言えないけど、ユリウスとアレクの関係も最近は良好だし、グランボルカからの援助もあるだろうから大丈夫だと思うよ。」
「あ、いえ、そうじゃなくて・・・私、正真正銘の庶民ですよ。」
「ああ、そういうことか。誰かが何か言ったらエリカのところにでも一回養子に入ればいいだけの話だ。昔からよくある手だよ。まあ、今の6伯はハーモンの爺さん以外は俺達と同じ世代だからそういうことをうるさく言う人間もいないけどな。」
「うるさく言うつもりは無いですけど、今はそういう余裕ないですから戦後にして下さいよ。ただでさえ戦中の吊り橋効果で男女間の関係が深まりやすくなっていてそういう処理も大変なんですから。」
「はいはい。騎士団長が範を垂れないわけにはいかないからな。そういうわけだから正式な求婚は戦後になるけど、俺は本気だから覚えておいてくれよ。」
 シエルはそう言ってオデットを後ろから抱きしめる。
「エリカの言うとおり最近多いなあ。悪いことじゃないけど、ちょっと心配かも。」
「それを戦中に堂々と婚礼を挙げたお前が言うかね。」
「あはは、たしかにね。さてと、まだまだ積もる話はあるけど、そろそろ城に向かおうか。さっきも言ったけどオリヴィエが待っているはずだからね。」
 そう言ってエドが馬を返すと、エリカとシエルも頷いて馬を南アミューへ向けて歩かせ始めた。


 オデットから見てオリヴィエは歳下の少女だ。しかしオリヴィエから放たれる威厳は女王と呼ぶにふさわしいものがあり、はっきりと言ってしまえば北のロチェスよりもよほど王の資質を備えているように見えた。
 オデットが持ってきたロチェスからの書状を読み終わると、オリヴィエは眉をしかめながら大きなため息を一つついて、オデットとシエルに「ご苦労様でした」とねぎらいの言葉をかけた。
「返事を書きますので、明日書状を持って北へ戻って下さい。本来我が国の中だけで処理するべきなのですがなにぶん人材に余裕がないものですから。客人であるにもかかわらず、お二人には苦労をかけます。」
「畏れながら女王陛下、書状にはなんと?」
 畏れながらと言いながらも全く恐れている様子のないシエルの物言いにオデットは肝を冷やした。
「そうですね。恐らくあなたにも関係のあることですし、話してもかまわないでしょう。」
 そう言ってオリヴィエは一度閉じた書状を再び開いた。
「書状にはこうあります。『双方現在ある戦力の中で一番強い者を選び、その者による代表戦で雌雄を決しよう』と」
 それだけの内容が書かれているのであれば、それほど怒りを買うような内容とも思えないが、オリヴィエの表情は明らかに怒っており、口元もかなりひきつっている。
「拝見してもよろしいでしょうか。」
「どうぞ。どうせ大した事は書いてありません。・・・というか、低俗すぎて不愉快で手元に置いておくのが嫌なのでこれは持って帰って下さい。」
 オリヴィエはそう言って側に控えていた兵士にシエルのもとに書状を持って行かせる。
「うわ・・・これは・・・。」
 書状に目を通したシエルは思わず絶句した。
 書状にはたしかにオリヴィエの言ったとおりの内容が書かれていたが、その文面が問題だった。
 挑発的という言葉では足りないほどに挑発的なのだ。シエルにはとてもじゃないがこれをあの気弱なロチェスが書けるとは思えなかった。
(完全にアリスの仕業だな・・・。)
 オリヴィエが言ったよりももう少し詳しく。かつソフトに文面を切り出すのであれば『親愛なるオリヴィエちゃんへ。そっちの戦力を削っちゃってごめんね。僕ってば君と違ってカリスマ溢れる王だから。王様だから!家臣の皆がこっちについてきたいと思うのも仕方ないよね。でもお兄ちゃんは可愛い妹であるオリヴィエちゃんに対して全面攻撃なんてしたくないんだ。戦力差がありすぎてイジメになっちゃうからね。だから君にとってとっても良い条件をだしてあげよう。君の家臣の中で二人だけ強い人間を選出しなよ。こっちも二人だすから二人対二人で勝負をして、もしそれでイーブンだったら僕達で直々に決着をつけよう。ああ、もしもとっても強いお兄ちゃんが怖かったら逃げてもいいよ。その場合はアミューは僕が貰うけどね。』・・・といったところだろうか。
 この文章がさらに挑発的に、オリヴィエを小馬鹿にしているような文面で書かれていると思ってもらえればいい。
「しばらく会わないうちに大分増長しているようですから、本気で叩き潰す必要がありそうですね。」
 オリヴィエは誰をとは言わないが、それがロチェスを指していることは明らかだった。
「では、返事を書きますので私はこれで。」
 オリヴィエはそう言って椅子から立ち上がると、肩を怒らせながら謁見の間を出て行った。
「じゃ、俺達も下がるか。」
 オリヴィエがいなくなったのを確認してからシエルが立ち上がり、隣にいたオデットに声をかけて部屋を出る。
「南の女王様は一体何を怒っていたのでしょうか。」
「読んでみな。」