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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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 エドとエリカがクロウの指定した街道の分岐点で馬を止めて待っていると小一時間ほどしてシエルとオデットがやってきた。
「シエルさんが本当に女性と一緒に行動してる・・・。しかも仲良さそう。」
 昨日とは違い、オデットは安心したような表情でシエルに寄りかかりシエルもそれを嫌がる様子もなく受け入れ、笑顔で話をしている。そんな光景を見て、基本的に女性と縁のなかったシエルしか知らないエリカがとんでもない物を見てしまったという表情と声色になるのは仕方のない話である。
「エドは聞いていたけどエリカもこっちに来てたのか。久しぶりだな二人共。」
「そんな朗らかに挨拶をしている場合ですか。」
 何事もなかったように挨拶をするシエルを白い目で見ながらエリカが口を開く。
「なんでいつまでも戻ってこないんです?糸の切れた凧じゃないんですからさっさと戻ってきてくれないと騎士団をまとめるのも大変なんですけど。」
「いや、別に俺が居なくてもエリカがいるだろ。それにマキスも。」
「あれが一番問題なんですよ。彼の武勇は認めますけど、彼が団長代理をしていると格式あるはずのリシエール騎士団がただの武闘派集団になってしまうんです。」
「俺がいたって格式とは縁遠いと思うんだが。」
「ただの荒くれ者の集団になるよりはいくらかマシです!」
 楽しそうに息のあった夫婦漫才のようなやりとりをしているシエルとエリカを見て、オデットが面白くなさそうに頬をふくらませながら尋ねる。
「シエルさん、こちらの方は?」
「ああ、紹介が遅れたな。前髪の長いほうがエリカ。あっちで完全に傍観者決め込んでいるのが俺の主君、エーデルガルド様だ。」
 そう言ってシエルが少し離れた所にいたエドを紹介するとオデットの顔はみるみる青ざめていった。
「し、失礼いたしました!」
 オデットはそう叫ぶと馬から飛び降りてエドの前まで走って行って地面に平伏した。
「エーデルガルド様の御前で大変失礼なことを。私はアリスの友人でオデットと申します。」
「あ・・・ごめんごめん。こんなところからじゃ威圧感あるよね。」
 エドはそう言って馬から降りると平伏しているオデットの手を取って立ち上がらせる。
「アリスの友人なら私にとっても友人だよ。よろしくね、オデット。」
「え・・と・・・。」
 オデットはどうしたらいいのかわからずシエルを振り返る。するとシエルは黙って頷いた。
「はい・・・よろしくお願いいたします。エーデルガルド様。」
「それで、オデットさんはなんでシエルさんと一緒に行動しているんです?もしかしてシエルさん、オデットさんを人質にしてアリス殿のところから逃げてきたんですか?」
「なんで俺が悪者であることを前提に話を進めてるんだよ。俺は北の王から南の女王に書状を届けるオデットの護衛だ。」
「ん・・・?それならわざわざオデットとシエルを使わなくてもシエルだけでも事足りるよね。」
「そこはそれ、あの女の食えないところさ。俺一人に書状を持たすのは不安だったんだと。そこで信用のおけるオデットを使者として立てて、俺はあくまでその護衛ってわけだ。まあエドが南にいる状態で俺がついているなら、少なくともオデットが問答無用で殺されるようなことはないしな。」
「なるほど、アリスらしいね。じゃあとりあえず城へ行こうか。オリヴィエも謁見の準備をして待ってくれているはずだし。」
「了解だ。それにしてもエド直々に迎えに出てこなくても良さそうなもんだけどな。」
 オデットを自分の馬上に引っ張りあげながらシエルがそう言って笑う。
「まあ、自分の家臣が戻ってくるっていうのに迎えに行かないっていうのも薄情だと思ったからさ。」
「よく言うぜ。どうせ城の中で退屈してたとかだろ。」
「ふぇっ!?そ、そんなこと無いし。」
「今・・・明らかに動揺したろ。」
「実際『訓練だけじゃ退屈だー、どっか行きたいー』って言っていましたしね。」
「ちょ・・・エリカまで余計なこと言わないでよ。」
 そんな三人のやりとりを見ていて、今まで緊張した面持ちでいたオデットがクスっと小さな笑いを漏らした。
「どうした、何か面白かったか?」
「いえ、テオさんの時もそうでしたけど、王族の方ってどこの国でも意外と気さくなんだなと思いまして。」
「そりゃあ、肩肘張ってばかりじゃもたないからな。周りの人間にくらい愚痴も言うし冗談だって言うさ。なあエド。」
「私は滅多に愚痴を言わないよ・・・それにどっちかって言うと皆のストレス解消に使われてる気がするし。」
「気のせいだろ。」
「気のせいですよ。」
「気のせいかなあ・・・。」
「いえ、騙されていますよエーデルガルド様。」
 シエルとエリカに言いくるめられそうになるエドを見かねてオデットが口をはさむ。
「なんでそういうこと教えちゃうかな。エドの警戒レベルが上がると俺達のストレスが溜まるだろ。」
「人をストレス発散に使わないでよ・・・そう言えばテオって誰?この大陸の王族なら大体わかるはずなんだけど・・・ああ、でもオリヴィエみたいな子もいるから知らない人もいるか。・・・でも最近どっかで聞いたような・・・。」
 エドのその言葉を聞いてオデットはしまったと思った。アリスからもできればテオの話はエーデルガルドにはしないように念を押されていたのだ。しかしそんなオデットの都合を知ってか知らずかシエルが笑いながら口を開く。
「そりゃあ聞いたことあるだろ。テオってのは、バルタザールだからな。奴の幼名がテオドールっていうらしい。で、今はそっちを名乗ってる。」
「そもそもランドール殿もエリザベス殿もそう呼んでいるではないですか。」
 エリカに言われてエドはポンと手を叩いた。
「言われてみればそうだね。確かにランドールさんもエリザベスさんもそう呼んでいたっけ。」
 そう言ってハハハと笑うエドを見てオデットが驚く。
「そ、それだけなんですか?」
「それだけって?」
「いえ・・・だってテオさんは。」
「そりゃあどっちかと言えば嫌いだけどね。でもあの人も被害者かもしれないから必要以上に憎まないようにしてるんだよ。憎しみは人の目を曇らせるから。私の目的はあくまでリシエールの夜を引き起こした存在でバルタザール個人じゃないから。」
 そう言って下唇を噛むエドの表情は先程まで笑っていた人間と同一人物とは思えないほど険しい表情をしていた。その研ぎ澄まされた一振りの剣のような冷たい目を見たオデットは背筋が凍るような感覚を覚えて黙り込んだ。
「・・・怖い顔しちゃってごめん。でもそういうことだからテオさんと会ってすぐに斬りかかるなんてことはないよ。と、いうかそもそもこの間一度会っているしね。」
「らしいな。テオが面白い嫁だって笑っていたぞ。まったく、二人共お互いの立場がわかってるのかね。」
「そんなこと言ったらどこかの騎士団長は自分のところの騎士団を放っておいてそのテオさんと一緒に旅をしていたわけだし、それこそ立場がわかってるのかっていう話だよ。」
「いやあ・・・まあそれは。」
「マキスに言いつけるのが面白いかもしれませんね。」
「本当にやめてくれ。あの家は親子揃ってメチャメチャ頭が固いんだから。」