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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 8 白と黒の姉妹姫

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「そうね、ソフィアの言うとおりだと思うわ。結果的に最悪の状況は回避出来てると思う。もしエリカが納得できないっていうなら、この後の撤退戦で納得できる結果を出しなさい。」
 ソフィアだけではなく、クロエもそう言ってエリカを元気づける。
「・・・はいっ。」
「もう少し時間がかかるけど、私の魔法も、もう一回くらいなら撃てるところまで戻せると思うからそれも作戦に組み込んで。」
「無理をお掛けしてもうしわけありません。お言葉に甘えさせていただきます。」
「我々スカウトがホブゴブリンを事前に察知できなかったことが敗因でありますれば、エリカ殿が気に病む必要はありませぬ。ですから気負いすぎず、いつものエリカ殿で居ればよいのです。」
「そういうことだ、小さな軍師殿。責任など、いつ何時でも全員にそれぞれあるものだ。我々アミサガン騎士団は主君の義姉上様の信頼する軍師殿の命令であれば最後の一兵まで命を投げ打って達成する覚悟。何でも命じてくれ。」
 やがて、集まって話し合いをしていたメンバーだけではなく、周りを囲むようにして休憩していたソフィア隊、アミサガン騎士団からもエリカを激励する声が上がる。
「・・・ありがとうございます。・・・みなさんの命、責任をもってお預かり致します!」



 撤退を続けつつ、ゴブリンの群れやホブゴブリンを潰し続けていたものの、数の暴力にはかなわず、エド達は徐々に包囲されていった。集落のない草原地帯であるグランボルカ南部には、寡勢の勢力が有利に戦うための狭まった谷のような地形は少なく、広い場所での戦闘が主となってしまっており、エリカの策やエドの魔法、ソフィアやデールの奮戦で押し返すものの、ソフィア隊にもアミサガン騎士団にも負傷者が増え、何人かの戦死者も出てきている。
 むしろ、ここまで戦死者ゼロで来ていたことが奇跡なのだから、しかたないとは言え、先程まで一緒に戦っていた者の死は、生き残った兵達の心に重くのしかかり、ジリジリと士気を下げていく。
 もう何度目かになるか解らない撃退。そして撤退。体力、精神力も削られ全滅の憂き目も出てきていた。
 現在エド達が逃げ込んだ農場は、大分前に放棄されたのだろう。建物は朽ちかけ、草は生え放題、家畜はおらず、質が悪くて放棄されたのか、麻の袋に入っている大量の古くなった小麦粉がそこかしこに放置されているような有り様だった。
「お腹すいた・・・。」
 かろうじて枯れていなかった井戸から汲んだ水で喉を潤したエドがそう呟く。
「我慢しなさい。小麦粉はあるけど、まさかここでパンを焼くわけにはいかないんだから。」
 クロエがエドを窘めるが、クロエ自身もすでに疲労と空腹が限界に差し掛かりつつある。
「参ったねー・・・お腹も減ったけど、体力がもう限界だよ。」
 ここまで一番奮闘してきているソフィアが地面に大の字になって笑う。
「何か・・・何か打開策は・・・。」
 ここまで直接戦闘にはかかわらず、体力を使わなかったエリカだが、その分頭脳労働で疲労しているのに加え、状況も切迫してきており、いつもはなんとでもひねり出せる策がひとつも浮かばない。
 デール達のはからいで、現在建物の中にはエド達を始めとして各隊の女性兵士など女性陣だけがおり、男性陣は外で休んだり周囲の警戒にあたっている。
「パン、食べたいなあ・・・。」
 エドがそう言って枕代わりにしていた麻袋に抱きつく。
「粉もあるし石もあるから火も点けられるけど、水も少ないしオーブンもないから・・・あ。」
「どうしたのクロエ。パン焼いてくれるの?」
 クロエが何か思いついた様子なのを見て、エドがガバっと顔を起こしてクロエの方を見た。
「いやいや、どうしても食べたいならそのくらい自分でしなさいよ。・・・じゃなくて。ここって、農場だったわけじゃない?」
「うん。そうだね。」
「・・・外にいっぱいあったサイロの中にもやっぱり小麦粉が入ってるのかしら。」
「どうだろうね・・・ここに転がってるんだし、入っているんじゃないかな。でも粉舐めても美味しくないよ。」
 完全に思考が食べ物に移行してしまっている様子のエドに、クロエが盛大なため息を付いてみせる。
「なんで食べることばっかり考えてるのよ!・・・まあいいわ。これが上手くいったらパンくらい焼いてあげる。エド、あんた魔法使える?」
「使えなくはないけど、さっきみたいに百単位で削るようなことはできないよ。せいぜい真空波くらい。」
「気流をコントロールすることはできる?」
「あんまり細かいのは無理だよ。大雑把に風の流れをコントロールするくらいならできるけど。」
「どのくらいの範囲?」
「1キロ四方くらいかな。」
「半径500メートルくらい?」
「べつに私を中心としなくても、一キロくらいならなんとか。」
「そこまで広くなくてもいいわ。500メートルはコントロールできる?」
「まあ・・・多分。」
 エドの答えを聞いたクロエの表情がぱっと明るくなる。
「そう。エリカ!ちょっと来て、相談したいことがあるの。」
 クロエに呼ばれて、少し離れた所で頭を抱えていたエリカが駆け寄ってくる。
「なんでしょうか。」
「できるかどうかの相談なんだけど、エドがね・・・。」


 ゴブリン達がやってきた時、農場は白い霧に包まれていた。
 多少ほこりっぽうような息苦しさを感じはするものの、生命力の強いゴブリンは多少の傷みや苦しさなど気にせずに進軍する。
 そして、ゴブリンの軍勢がすべて霧に巻かれた時、突然ゴブリン達の軍勢の真ん中に火のついた松明が現れた。
 直後、白い霧は巨大な炎となってゴブリン達を包みこみ、大爆発を起こす。粉塵爆発である。
 何が起こったのかすらわからず、普通のゴブリンは吹き飛び、ホブゴブリンにも大きな被害がでた。
 屋外で起こすのは至難の業であるその現象を、クロエはエドとエリカの協力によって発生させた。エリカに舞わせる小麦粉の量の検討をさせ、エドによって気流をコントロールして地面に堆積しないよう常に空気中を舞わせる。そしてその小麦粉で作られた霧にすべてのゴブリンが入ったところでクロエが松明をテレポートさせ爆発を起こす。そのクロエの策が見事に決まり、ゴブリンの群れは吹っ飛ぶ。ホブゴブリンも数匹吹き飛ばすことに成功した。しかし、逆に言えばホブゴブリンは数匹しか吹き飛ばせなかったのである。
 不意打ちによってダメージを負ったものの、生き残ったホブゴブリンは霧の晴れた先に居たエド達に向かって一斉に走りだした。残るホブゴブリンの数は20。ソフィアとデールが前に出るが当然二人で抑えきれるものではない。二人が抑えた何体かの他は二人の横を抜けエド達の方に向かって走り続ける。
 ソフィア隊もアミサガン騎士団も、生き残っている人間はすべて抜剣し、槍を構えエドとエリカを守るように布陣してホブゴブリンを迎え撃つための準備をする。微かにでも生き残るための道があると信じて。
「なんだいなんだい、そのへっぴり腰は。あたしゃあんたにそんな構え方を教えた覚えはないよ。」