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萌葱色に染まった心 2

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 無一文で助けてもらった以上、文句を言えない事を悟り、女は黙った。万が一のことを考え、バイクも建物の中にしまうことにした。

 本当は、見捨てることも出来た。おそらく、さっきの男が探していたのは、彼女に違いない。俺が助けた人など、ここ数日では彼女ぐらいだ。あのまま放って置いたら、きっとよくないことが起こる。そんな気がする。そうなると目覚めが悪い。
 後悔だけはしたくなかった。幸いなことに、ここなら雨露はしのげそうだし、一応ドアもついているから、夜風にさらされることはない。欠点といえば、電気がないことくらいだ。
 だが、そこは徹の持っていた懐中電灯が活躍した。単一電池四個でつく蛍光灯は意外に明るかった。キャンプをしたことのない少女は、徹の持っている道具は、まるで魔法の道具だった。
「……襲ったら悲鳴を上げるからね」
「ご自由に。誰も来ないと思うけど。まあ、俺は君には興味ないから、心配しなくてもいいとけどね」
 警戒心をゆるめない少女に対し、徹は冷たく言い放つ。
「晩飯、食ったのか?」
「……」
 少女は返事をしようとしない。徹はため息をついて、カップラーメンを投げてよこした。
「それでいいか?」
 少女は黙って頷く。徹は荷物の中からコンロをとりだした。続いてミネラルウォーターとヤカンである。ヤカンに並々と水を注ぐと、コンロにかけて火をつけた。徹はコンロの前で本を広げていた。彼の好きな本だ。宮沢賢治の詩集。徹はちょっとした時間にその本を読むのが唯一の楽しみだった。
「本、好きなんですか?」
「ん? まあ、人並み程度にね」
 といいつつも、何度も読んだのであろう。その本は手垢が付いていた。だけど、ずっと大事に扱われてきたのは、見ればすぐにわかる。お湯が沸くと徹は彼女のカップラーメンにお湯を注ぎ、残った分で自分の分を作る。ラーメンを食べ終えると、徹は自分のシュラフを彼女に手渡した。
「あなたのは?」
「別にいい。毛布が一枚あるから」
 ぶっきらぼうに言うと、徹は入り口近くに行って、座ったまま毛布にくるまると、壁により掛かった。
「なんであたしに親切にしてくれるの?」
「さあな。ただの気まぐれさ」
「本当に?」
「うるさいな。早く寝ろよ」
「うん……でも一つだけいいかな?」
「なんだよ」
「名前、まだ聞いてなかったね」
「……月成徹」
「あたしは永岡志穂」