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萌葱色に染まった心 2

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 そういった女の表、次の瞬間には固まっていた。
「はい、千八百円になります」
「……」
 その表情から血の気がなくなっていく。上着、ズボンなど、ありとあらゆるポケットをまさぐるが、そこには何も入ってなかった。彼女が唯一持っていたバッグにも、ハンカチやポケットティッシュくらいで、財布らしきものはどこにもなかった。
「あはははは……。どこかで、落としたのかな?」
 乾いた笑いを上げながら、頭を掻く。店員にジロリと睨みつけられ、彼女は額から汗を流していた。どうやらどこかで財布を落としたようだった。彼女曰く、店にはいるまでは確かにあったのだそうだ。とはいえ、支払いの時点で持っていないということは、始めから無銭飲食が狙いだったとも言い切れない。
「警察、呼びますよ」
 店員が言った。同情の余地はない。店の人にそう言われ「それだけは勘弁してください」と、懇願するのだが、相手も商売だ。「はいそうですか」などと言えるはずもなく、店員はレジの横にある受話器を取った。
 一、一、〇。まさにその番号を押す瞬間だった。カウンター越しに伸びた手が、電話を切った。
「なにするの?」
 手を伸ばしたのは、食事を終えて支払いのためにレジに来た徹だった。
「つまり、お金が払われれば、問題ないわけですよね」
「それはそうだけど……」
 憮然とする店員を後目に、徹は財布から金を出すと、店員に差し出した。唖然とする女を後目に、店員はそれを受け取る。お金は徹の食事代を差し引いてもお釣りがでるくらいだった。
「お客様、これは?」
「足りるだろ? それで」
 徹はそういい放つと、振り返ることなく店を出ていった。
「ありがとうございました」
 なんと言ったらいいのかわからなかったのだろう。去っていく徹に向かって、そういっていた。お釣りを出すことすら忘れて。少女は慌てて徹の後を追って店を出た。
「あの……」
 聞こえていないのだろうか。徹はヘルメットをかぶってバイクに跨る。振り向きもしない。少女は声を張り上げた。
「ありがとうございました」
 バイクのエンジンがかかる。
「……別に。店の人が困ってたから。ただ、それだけだ」
 ぶっきらぼうに言い放つ。
「もしよかったら住所とか教えて貰えませんか? お礼は必ずしますから」
「いい、別に。期待していない。それに、君が貸してくれと言ったわけじゃないだろう?」