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萌葱色に染まった心 2

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 倒れ行く人影の向こうに、黒いマントに身を包んだ中年の男が立っていた。武器らしいものは何も持っていない。見た目は全く人間と変わらないが、人以上の力を有しているのは間違いない。なんといっても、素手で人の首や肩を切り落とすことができるのだ。その容貌からは想像も出来ないような残忍さを兼ね備えている。
「ヴ、鬼!」
 誰かが叫んだ。姿こそ人と同じだが、彼らはその顔の裏に隠された残忍な性格と、人を食べるという行為から、長い間人間と敵対してきた。紀元より昔、人がこの世に生を受けて以来の仇敵なのだ。
「少々目障りになってきたからね、君たちにはすまないが、消えてもらうよ」
 人間達に残された最後の砦、鬼ハンター。最近は多くの鬼を倒してきた。そのハンター達が今、地上から消されようとしていた。鬼の猛攻撃に、ハンター達は全く歯が立たない。相手はたった一人なのにである。千対一。だが、人間の方が圧倒的に不利だった。状況は悪くなる一方だった。もう半分の人間がただの肉の塊と化した。そこはもう、血の海だ。
「志穂。お前は逃げるんだ」
「え? そんな。みんな戦っているのに……」
「ここで全滅するわけにはいかない。そうなれば、誰が彼らと戦うんだ?」
 状況を重く見た老師が志穂を諭すように言った。
「それに、お前はまだ実戦に参加したことがないだろう?」
「でも、それならお師様も一緒に……」
「ワシはもう十分に生きた。この先は長くはない。ならば、未来あるものを生かすのが、ワシの役目だと思わぬか?」
「そんなこと……」
 老師は一つのペンダントと地図を彼女に手渡した。
「その昔、ニーベルンゲン族の作ったペンダントじゃ。いざというときに、志穂を守ってくれるだろう」
「老師様……」
「東京に行け。その地図に標されたところへ。そこに、ハンターの本部がある」
「ハンターの本部?」
「ワシらもそこに向かう。そこで落ち合おうぞ」
 老師はそう告げると、壁に隠されたボタンを押した。志穂の足下の床が開いた。
「老師様!」
 彼女の体は脱出シュートを滑り降りていく。
「お互い生き抜く事が出来れば、また会おうぞ」
 最後に聞こえたのは、老師のそのつぶやきだった。