萌葱色に染まった心 2
本来なら、寝ている時間である。夕方早めに寝て夜に備え、仮眠をとる者が基地にいるので、この時間はもうすっかり静まりかえっている。そろそろ起き出してくるはずだし、見回り組が帰ってくる頃だから、基地内もにぎわってくる事だろう。
私もそろそろ寝ようかな。志穂がそう思ったときだった。轟音が建物を揺るがした。
「なっ、なんだ?」
静かだった建物の中に、人々の声が木霊した。事態を把握しようと、右往左往する人々を後目に、外部からの侵入者をセキリティーシステムが感知した。すかさず警報が鳴り響く。
『警報。警報。侵入者あり。総員、警戒せよ』
人々はどよめいた。見張りについていた者は仮眠中、あるいはゆっくりと休んでいた者を起こす。驚きパニックに陥る物もいた。それぞれが武器――ライフルや拳銃を手にし、侵入者の襲撃にそなえた。緊張した空気の中、何も起こる気配はない。コンピューターの誤作動だろうか? 誰かがそうつぶやいた。確かにそうかもしれない。誰かが相づちをうつ。勘違いのようだな。誰かがそう言って武器を構えた手の力を緩め、戦闘態勢を解いた。まさにその瞬間だった。
入り口の際に立っていた男の首が飛んだ。赤い鮮血が首筋から吹き出し、天井にまで届く。そのまま力を失った肉体は、ごろんと床に転がった。飛んでいった首は笑顔のまま。おそらく、自分が死んだことにすら気づけなかっただろう。
「きゃぁぁぁ……」
悲鳴が上がる。群衆がどよめいた。侵入者はこの瞬間を待っていた。続いて女の首が飛んだ。誰もが突然に事に息を飲んだ。抵抗することも、警戒することもできないまま、続けざまに三人目の犠牲者が出た。
肩からばっさりと切り落とされた男の右腕が、ライフルと握ったまま床に転がった。男は床に転がった自分の腕を見て動揺する。傷口から吹き出す血を見て血の気を失い、男は床に倒れ込む。その床には、真っ赤な絨毯が広がっていく。
「以外に歯ごたえがないな。ハンターと称するわりには、大したことはない。所詮、人間などその程度のものか」
作品名:萌葱色に染まった心 2 作家名:西陸黒船