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ブラックウルフ
ブラックウルフ
novelistID. 51325
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韓国客船に乗り合わせて

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 私は、50人定員の食堂で、生徒たちと一緒に朝食を済ませてから、私は10人定員の4階客室に戻り、自分の荷物を整理した。私が横幅60センチのボストンバッグのチャックを締めようと触っていたときだった。ドーンという大きな音がこの船の奥深くから響いてきた。どうしたんだろう、海中生物にぶつかったのか、あるいは岩礁に船底をこすりつけたのかと不安がよぎった。
 それから、30秒も経たない頃だった。バタンとドアが開いて、女生徒数人が駆け込んできた。
「先生、なんか大変だよ。船が止まったよ。なんか動けなくなっているみたいだよ、どうしよう先生!」
と女生徒たち慌てた声で叫んだ。その中に、イスジンがいた。
 セマルル号には、私たちの修学旅行の生徒たち旅行者290人が乗っている。それに一般旅行客もかなり乗っており、定員520名のところ、どうみてもかなりそれを越えていると思えた。
 私は嫌なことを思い出した。セマルル号の出港時刻は午後1時だったが、うちの修学旅行の生徒だけでなく、出港の際に増えた一般客を載せるために、出港時刻が1時間も遅れたのだ。それに出航前に、デッキの手すりに?まりながら貨物庫に入っていく車の列を見下ろしていたら、それこそ渋滞していた。結局渋滞するほどの車両をすべて積み込んだから、いかにも重量オーバーだった。
「だから言わんこっちゃない」と日本語でほざいた。
 私はすぐ横にいるスジンの不安そうな顔を見て
「すぐ船員さんを呼んでくるから、下にいなさい」
「でも、船員さんは『心配ない、心配ない。下にいろ。人が動くともっと危なくなるから、下にいろ』って言っているよ」
「じゃあ下にいなといけないわね、先生もすぐ行くから」

 私は、スジンが修学旅行の2週間前に悩みを打ち明けてくれたことを思い出した。
 スジンは、顔が細くて口も小さく、二重まぶたで目がキリリとした美人だった。なのにスジンは、自分では美人だと思っていないらしく、髪も簡単に「おさげ」にしているだけだった。
「先生、私はもう修学旅行に行きたくない」
と放課後の教室で泣きじゃくる顔をして、私に訴えて来た。
 スジンは顔を下に向け、唇を振わせている。
「どうしたの?女の子から仲間外れにされた?それとも失恋しそうになったとか?」
 スジンは、私の後の言葉に反応した。
 美人のくせに自信を持てないのだ。25歳の私からすれば、また次の恋を見つければいいのにと思うが、中学生のこの子は、今の恋が実らなければすべてが失われるとでも思っているのだろう。
「完全に振られたの?それとも挨拶くらいは出来るの、友達として?」
「あいさつくらいはできると思う?」
「それでまだ好きなんでしょ、ホントは?」
「うん」と首を深く縦に振った。本当は深く頷いたことを彼に伝えたいんだろうと思った。
「じゃあ、行こうよ。先生が応援してあげるから、修学旅行で、もしかしたら彼と思い出作れるかもしれないじゃない、行こう」
 スジンは笑顔を見せて「うん」と深くうなづいた。

 実は私の恋も宙に浮いていたままだった。そして、修学旅行の目的地チェジュ島の旅行代理店に勤めながら、旅行ガイドをしている韓国人のパクウオムと会うことになっている。
パクとは、釜任大学で一緒だった。パクから招待されて、大学のサークル「軽登山愛好会」の仲間とチェジュ島に2泊3日で旅行したことがあった。そのうち1泊は、パクの父親のパクオンデさんが持っている農場の離れで泊まった。パクオンデさんは、口数が少なくて美味しい野菜を作ることにばかり熱を燃やされていた。見せられた農場は広々として、爽やかな風が吹き抜ける小高い丘の上にあって、ここなら野菜も喜んで育っていくだろうと思った。パクオンデさん自慢のキムチを勧められて、小皿に盛られたキムチを一口口に入れた。「酸っぱい!」と、『不味いぞ』という顔を作ってしまって、ちょっと大きな声を出した。パクオンデは困った顔をされたので、「ごめんなさい」と言って小皿に残ったキムチを食べた。私はパクオンデさんを怒らせたかなと気が小さくなった。

「先生の彼氏は?」
「うん、私もチェジュ島で会うことになっているんだよ」
 これを聞くとスジンは歯を見せて笑い
「わー先生の恋も上手く行くといいねえ」
と言いながら、私に抱きついてきた。感情の落差の大きい韓国人を私は好きだ。

 8月3日午前9時18分。セオルル号3階客室。 船体傾斜角8度。
 
 また、「ギーギー」という、お腹の底まで響いてくる重い振動音が足下から響いてきた。
 それとともに、今度はゴーンという音が響いてきた。
「先生、怖い!!」 
「行こう、こんなところでボケッとしていたら、どうなるか分からない」
 私とスジンたち女生徒は、客室から出て斜めに傾いた通路を歩き上に向かった。ちょうどその時、通路側に小部屋のドアが開いた。そして、救命胴衣を付けた男子生徒たち7人くらいがドッと出てきた。
「先生、もうヤバイんじゃないか?甲板に行った方がいいんじゃないか?」
とチェジュオンが叫んだ。
 私の手を強く握ったスジンの顔を見たら、熱くチェを見ていた。
「ははーこの子ね」
 この先どうなるか分からない状況で、小さな恋が実りかけていた。
「分かったわ、ここにいる私たちだけでも上に行こう」
 私たちは階段を上り始めた。男の子たちは健気にも「先に行ってくれ」と言って、私とスジンを先に行かせた。
 私たちは階段を上がり始めた。
 その最中に、セオルル号がまた大きく揺れて傾いた。
 海の見える甲板まで行き着いたとき、そこには乗客は少なく、紺色の制服を着た乗員もいなかった。
 私はスジンの手を引いて、甲板隅の白いタンクのような物に近づいた。
 「これは救命ボートだよね?」
 「でもどうして救命ボートなのに、乗員はこれを使おうとしていないの?」
 私はもう一度広々とした甲板を見回して、乗員を探した。だが制服の乗員は一人も甲板にいなかった。
 海上を見ると、波が高くてその波の上に落ちれば、泳ぎが上手い子でもかなりきつそうだった。それに、深山中学は水泳の時間もなく、ほとんどの生徒はたぶん泳ぎも出来ないだろうと思われた。生徒をここから海に飛び込ませても、何人かは助からないだろうと不安が増した。
「まさか、そんなこと考えるからもっと悲惨な事態を呼ぶのよ」
と一人呟いた。

 私は、甲板の隅でなにかを探した。今後怒ることの情報を得るためになにかを探した。身を守るための物、安全を誘導してくれる人を探した。私は、20歳前半の角張った顔の船員を見つけた。その服は白茶けていたし、制帽もかぶっていなかった。
「ちょっとどうなっているの?これ救命ボートでしょ、なんで手を付けてないのよ。それに下に生徒が290人もいるのに、この船は大丈夫なの?どうしてこんなに傾いているの?どうして止まっているの?」
「ああ、大丈夫です。この大きな船は、これだけ傾いたくらいでは沈んだりしませんから。それより人が動いたりすると、船が不安定になるので、救助艇が来るまで下にいて下さい。」と軽く薄笑いさえ浮かべながら言いのけた。
 なんか「テキトー」?