堕天の勇者!? 〜魔王はじめました〜
簡単な空間魔法ならエリーにも出来るが命のブレスレットなどの特殊な魔法道具からの持ち主の居場所を捜索するとなると複雑な魔法になり、カリンのような魔導師にしか出来ない。しかし、今のカリンは時間魔法を使ったばかりなので魔力が回復するまで休息が必要だ。なのでこの時間を使ってお昼ごはんと今後のことを話すことにした。
「ねぇメアちゃん、昨日のレーヤに変なところなかった?」
メアがつくったミートソーススパゲティを食べながらエリーがきいた。
「いつものお兄ちゃんでしたよ。ただいつもよりこわい顔してた…」
「そう…レーヤの中で何かがあったのは間違いなさそうね」
うーん…と唸るエリー。するとそのとき。
「魔力回復した」
「え!?はや!」
カリンの言葉にエリーが驚く。それもそのはず。カリンは結界と時間魔法に自身の魔力をほとんど使用したはずだ。カリンの魔力量なら全回復少なくとも四時間はかかる。しかし今は休んでから一時間ほどしかたっていない。
「なんでそんなに回復が早いのよ?」
エリーは率直な疑問をカリンにぶつけた。
「ん…マジックヒール使った」
「!そんな貴重なものを」
マジックヒールは使用者の魔力の回復を急激にはやめる魔法道具だ。たいへん便利な道具だが一回使い切りでしかも作れる人も作る素材もとても少なく、高価で貴重な道具である。
「カリンはこれを使うべきと判断した。カリンだってレーヤのこと早く見つけたいもん…」
めずらしく感情を表に出すカリンにエリーは微笑み、
「そういうことならいいわ、それじゃあはじめましょ!」
空間魔法は詠唱よりも発動者のイメージ力が重要になる。なので時間はそれほどかからないが、失敗するリスクが普通の魔法より断然高い。
無論、カリンはほとんど失敗はない
「…終わった」
「で、レーヤはどこに…」
ガンドロフは魔法を終えたカリンに結果を聞こうと思ったが聞けなかった。カリンが今にも泣き出しそうな顔をしていたからだ。
「みんな…驚かないできいてね…」
一瞬の間をおきカリンは涙声で言った。
「レーヤの今いる場所は…魔王城!」
「はぁ…俺もついに魔族か…」
魔族になる儀式を終えた俺たちは食卓と思われる広い部屋に移動して、否定しようもない現実に俺はただただため息だけが出た。
「今更どうにもできませんよ。魔王様」
そしてこの呼び方だ。この呼び方だけは当分なれそうにないな…
「そういえばメイサ、ガルドが娘がいるとか言ってたがどこにいるんだ?」
「ええ、いますよ。そこに。そろそろ出てきたらどうですか!ミリア様!」
メイサがそう言うと扉の近くの柱の陰で赤い髪が揺れた。そう、ガレスを倒して帰るときにみた髪だ。
そしておぼつかないあしどりで俺の前に来る。とても美しい。ただなぜか涙目だ。
「わ、私の名前はリノ・ミリアです…って目つき怖い〜!うわ〜んメイサ〜!」
と叫んでミリアに抱きついた。
今の俺の目つきそんな怖いのか…とショックを受けながらとりあえず自己紹介をすることにした。
「俺はシルソ・レーヤ。今日からよろしくな」
と微笑みながら言った。しかしミリアとは目が合わずミリアが抱きついていたメイサと目が合い、その瞬間メイサの目が見開きそのままの体制でミリアを巻き込み倒れた。
「ぎゃああああ!メイサ〜!メイサが死んだ〜!!ぎゃああああああああ!!」
そしてミリアはメイサをだいてそのまま何処かに走り去っていった。
何がおきたかわからない俺はそのままそこに立ち尽くすしかなかった。
1時間くらいたってメイサが気がついたようでミリアを連れて戻ってきた。
「さっきはすいません…」
「いや、俺何がおきたのかさっぱりで…」
メイサに謝られたがどちらかというと俺の方があやまらなければいけない感じだし。
「わたしはあなたの眼から放たれた巨大な魔力を直接眼で受けて目の神経を通して脳を揺さぶられて気絶してしまったのです」
うむ。完全に俺が悪いな。目つきが悪いどころか凶器だな。そして確かに魔力が脅威的に強くなったのは感じてたけどそれほどとは…。しかも神秘的な「魔」の力ではなくて、邪悪な「魔」の力が…。この力を抑えるようにしないと。
「うううう…」
ミリアが唸りながら睨みつけてくる。しかも俺と目が合った途端涙目になり凄い勢いで目を逸らす。完全に嫌われたな俺。
「魔王様、どうやら初仕事のようです」
メイサはそう言うと右手を前に突き出しそこから大きな鏡が現れた。
鏡が王座の間と三人の俺の元仲間を写した。
「侵入者です。魔王様ご指示を」
作品名:堕天の勇者!? 〜魔王はじめました〜 作家名:ゐしドゥ