ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生
一週間が経った。また花子とコンビニで会うと今度は花子の方から声をかけてきた。
「今日公園で会える?」
「ああ、待ってるよ」
僕は公園で待つことにした。今日は花子が笑顔で走ってきた。
「ひろちゃん」
「おう、花子どうした?なんかいいことでもあったか?」
「いいこと?いや逆よ。嫌な事ばかり。後輩がまた意地悪な事言ってくるのよ。私に森三中のメンバーに入れてもらえとか、通路を歩くときは場所を取るからどっちかに寄れとか」
「そういう事前から言われてなかった?」
「そう、ずっと前から。いつも嫌味ばかり。店長も店長よ。あんな嫌な奴持ち上げて年下で私よりも後輩なのに、あんな嫌味な奴が勘違いして偉そうになって」
「あっ。店長って言ったら、嫌ねえ。とにかく神経質なの。完璧主義っていうのかしら。ちょっと商品がずれているだけで、ああだこうだとぐだぐだ言ってきて、もう腹が立つ」
「今までバイトしてそういう嫌な思いをしてきたと思うけど、今日ほど不平言ったの初めてだよ。ところでストレス発散とか部屋の片付けは?」
「部屋の片付け?ああ、あれ一日で終わらせようと思ったけど結局一週間かかって昨日やっと終わったわ。聞いて。いらないゴミを段ボール箱に入れたらなん箱になったと思う。段ボール12箱。私の部屋に段ボール12個分の不要のものがあったのよ」
「それで趣味の方は?」
「ああ、作曲ね。お風呂の中でいつも30分位歌を歌っているの。私の作曲したやつ聴いてくれる。歌詞とか恥ずかしいから誰にも見せないけどひろちゃんには幼馴染だから教えるね」
「うん」
「マイケルジャクソンのBeat itからヒントを得たの」
花子は僕の前で歌った。
♪ビート イット 大きな声で歌おう
ビート イット あんな奴に負けるな
ビート イット 自分を信じていこう
ビート イット 自分にもっと自信を持って♪
僕はその短い曲を聴いて嬉しくなってきた。
「花子。すごいよ。いい歌だよ」
「そう?そう思う?そうそうダイエットの話だけど、昨日夜10時頃部屋を片付けてごみを出していたら月の明かりが綺麗だったの。だからそのあと私30分位歩いたんだ。気持ち良かった。また歩こうと思う」
「花子。すごいよ。すごい進歩だよ。何かいい方向に向かっている。そう実感できるよ」
そうして僕たちは別れ一週間が経った。
一週間後に僕達はまた公園で話をした。
「どう?生活は変わった?」
「うん。私も何かいい方向に向かってる気がする。ひろちゃんに不満聞いてもらえない間私後輩から受けた嫌な事日記に書いたり作曲も楽しんで。だも何か楽になった訳じゃなくて、意地悪な奴にどんどん腹が立ってきて、店長もどんどん嫌いになってきて」
「でもそういう感情が芽生えた事はいい事じゃない?」
「いいんだろうね。でも体重とこれとは別。私は毎日ウォークング30分歩いてる。しょうが水飲んでひろちゃんが中華に連れて行ってくれたと聞いて以来、ポテチの量も減った。代わりに夜はスーパーの半額になった刺身とか食べてる。ポテチ3袋より安いくらいよ。でもビールは止められないし、なるべくお茶にしようと思ったんだけど、運動量が足りないのね。でも走ってみたけどやっぱ続かなくて、私達がダイエットを始めて減った体重は2キロ、たったの2キロね。
「2キロでもいい方だよ。少しづつ減らしていけば」
「でもね。私ね。体脂肪計とか買って、毎日測っているの。いくら歩いても体重は86キロから84キロの所をいったりきたり。体脂肪26%から24%をいったりきたり。いろいろ食べちゃった日と食べなかった日でむらが出て、でもいったりきたりで、この2キロ以上は痩せそうにないわね。やっぱアイドルなんて無理なのかな」
僕は黙ってしまった。でも言った。
「花子はいい方向に向かってる。とにかくこのままいろいろ続けた方がいいよ。きっといいことが待ってる。今やってる事を辞めちゃうのは花子の無意識が痩せようとするのをそうはさせまいと意地を張っているんだ。抑圧されているエネルギーに触れて、無意識が…」
「そういうの止めて!」
花子がヒステリックに叫んだ。
「あっ、私ったら。ごめんなさい。いろいろ考えてくれてるのね。ありがとう。ひろちゃん。ひろちゃんは優しいのね」
僕は驚きとともに何とかしなくちゃそういう気持ちになった。
(続く)
作品名:ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生 作家名:松橋健一