ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生
次の日僕はまたツトムと学食で会った。
「ツトム」
「おう宏」
「昨日は御免」
「いや。よんだのは俺だ。悪気はなかったんだろうが、これが精神保健の難しいとこだよ」
「ツトムは今心理学とか勉強してんだろう?」
「ああ、まだ駆け出しだけどな」
「どんなこと学んだ?」
「まあ、発達心理学も勉強したし、心理学Aでは今ヒステリー症状とその治療について勉強してるよ」
「へえ。聞かせてよ。その話」
「まあ俺も習ったばっかだから詳しくないけど、フロイトの心的外傷理論で説明すると、ヒステリーには病原となる様な心理的な外傷体験が存在し、それに伴って発散される筈のエネルギーが、その発散の路を閉ざされているために症状が発生すると…」
「その治療法は?」
「そりゃあ、箱庭療法だとか、カウンセリングとか、まてよ。こないだノートにとったな。ええと…」
ツトムはノートを取り出し調べだした。
「あった。あった。ええとその治療法は誘因となる事象の回想を完全な明白さで呼び起こして、それによって、これに随伴していた感動をも呼び覚ますことに成功し、しかる後に、患者が自らその事象を出来るだけ詳細に描写してその感動に言葉を与えれば、ここのヒステリー症状はたちどころに消滅し二度と起こるものではない。そう書かれている」
「へえ。なるほどなあ。でもヒステリーじゃないんだけどなあ」
「何考えているか分からないけどヒステリーじゃなくてもすべての心の病は抑圧からきていると俺は思うよ。みんな各々大なり小なりトラウマがある。だから発散するんだ。受動的にではなく能動的に。僕のゼミの先生は俺たちのこう言う」
『一年のうち心理学はピンとこなくてもよく分からなくてもいい。でもこれだけは忘れるな。自分らしく生きる事。社会に参加する事。作家になりたかったらひたすら本を読むのではなく、まず書いてみる事。ミュージシャンになりたかったら音楽を聴きまくるのではなく、作曲し演奏する事。歌う事。自分を表現する事』
「へえ。そんな事言うんだ」
「耳にタコができるほど聞いたよ。毎回毎回言うんだもん」
僕はその日ひとりで電車の中で考えた。
「自分で自分を痛めつける」
「ヒステリーと抑圧」
「受動的にではなく能動的に」
そしてある案が僕の中に浮かんだ。僕は花子のいるコンビニに走った。そこに花子はいた。
「花子。今日も話があるんだ。公園に来てよ」
「今仕事中よ。それに私ダイエット辞めたって言ったでしょ」
「ダイエットの話じゃない。食べる話だ。仕事終わったら食事に行こう。中華。たらふく食べよう」
「何考えているか分からないけど、妙に興奮してるわね。まあ、ダイエットの話じゃなきゃいいけど」
僕達は公園で落ち合った。
「ここの近くの中華だ。敷居のある所を探したんだ。行こう」
僕達は中華の店に入った。
(続く)
作品名:ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生 作家名:松橋健一