小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

数日後、僕は大学の学食で友人のツトムに会った。
 彼は社会福祉の勉強をしていると記憶している。
「よう宏」
「ツトム。進学校だと高校の奴らともよく会うなあ。今日暇?」
「いや、実習があるんで」
「えっ?社会福祉の実習?あれって3年生とか4年生にならないと受けられないんじゃないの?」
「3年になったら単位を取る為に実習が必要になるわけで、別に一年の時に実習を受けちゃいけないって決まりはないんだ。お金は払わなければいけないし単位もつかないけど。そういう実習受け入れている施設も多いんだ」
「ええ、どんな実習?老人介護とか?」
「俺の分野は精神保健だよ。今日は精神障碍者のグループホームを見学に行く。本当はいけないんだけど良かったらついてきなよ」
「いいの?面白そう」
「ああ。でも余計な事は言わない方がいいよ。アドバイスとか。俺だって今はまだ無資格なんだし。特にほら、病は気からとか、励ましの言葉とか健常者にとっては、いい言葉でも、現在、鬱の人にとってはしんどい場合があるから」
「分かった。とにかくしゃべらなきゃいいだろ」
「うん。そうした方が無難だな」
 
 僕達は電車に乗り、彼の実習先のグループホームに行った。民家を借りた小さなグループホームだ。
「良かった利用者しかいない。お前も入って良さそうだぞ」
 
 大きなリビングの様な所に3人の利用者がいた。歳は二人は20代、一人は40代という所だろうか。ツトムは、
「木下さん。部屋は片付けましたか?こないだ所長に怒られたでしょ」
 そう利用者に言う。
「明日片づけます」
「今片付けないとまた言われるよ」
 僕はツトムに、
「部屋の片づけまで指導するの?こういう所って」
 そう耳打ちした。ツトムも小さな声で、
「精神障害の状態の悪さは部屋に散らかりようで結構分かってくるもんなんだよ。精神的不衛生が部屋の散らかりようを、何とも思わなくなる。汚い環境でも平気になってしまう」
 一人の男が入ってきた。
「柳葉さん、今起きたんですか?もう夕飯になりますよ。完全に昼夜逆転して」
 ツトムがまた言った。
「すいません。プロレス見てたんで」
「またプロレス?」
 もう一人の利用者が言う。また続けて、
「僕なんて放送大学みてたもんね。僕はNHKと放送大学しかみない。それ以外のくだらない民放は一切見ない」
「それも極端ね」
 もう一人の40代位の女性が笑いながら言う。僕がその40代の女性に、
「そうですよね。固い番組ばかり見るのもなんですよね。それにしても綺麗なブレスレットですね。それみんな手作りなんですか?」
「あの…いや」
 急にツトムが僕の腕を握り睨めつけた。
 そしてツトムに引っ張られ僕達はグループホームの外に出てしまった。
 ツトムは真顔だった。そして言った。
「余計な事言ってくれたな」
「えっ?俺何かまずいこと言った?病は気からとも励ましの言葉も言ってない筈だけど」
「ブレスレットの事だよ」
「ああ、綺麗だって褒めたこと」
「左手にしかしてなかっただろう」
 僕はよく記憶をたどった。そうだなんだか違和感を感じたがそう言えば左手にしかしてない。左手だけいくつものハンドメイドのブレスレットをしていた。
「あれはリストカットだよ。リストカットを隠すためにしているんだ」
「自殺未遂?」
「いや、本当に自殺しようとしている訳ではなく、医者もリストカットを許しているらしいんだけど、つまり自傷行為だよ。自分で自分の体を痛めつける。病気の症状だ。あんまり自傷行為はひどいとここのホームにもいられなくなる。だからその事に触れてほしくなかった」
「ごめん」
「まあしょうがない。俺がそもそも呼んだんだやっぱりここに人を呼ぶのはまずいな。今日は帰ってくれ。職員は区役所とか病院同伴で出かけているようだけど。帰ってきたら話が面倒くさいし。悪いな」
「ああ、こちらこそ悪かった。今日はありがとう。じゃあ」
「じゃあ」

“自分で自分を痛めつける”
 僕の頭の中にあったのはその言葉だった。駅の側ではフランス料理屋がある。

 フォアグラのソテー780円

 そんなものが目に付く。
 自分で自分を痛めつける。フォアグラの様に苦しんで食べる。そうだ。
 僕の中に雷の様なものが走る感覚だった。
(続く)