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ぽっちゃりグラビアアイドル×秋葉系東大生

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僕は医学部の学生をつてに、また、栄養士を目指している人をつてに話を聞いた。

「とにかく運動すること。よくテレビで運動をしなくても一分で痩せるとか,ああいうのは嘘。それにあの類は毎日アルコールを飲まない。食事も精進料理の様なダイエット食をし続けて初めて成果が上がるんでしょ。でも実際学生はラーメンもつけ麺も食べるしピザも食べる。飲み会もいく栄養士はそう言った。
「なるほど運動ね。でも運動オンチなんだ」僕は栄養士に花子の事情を話した。
「だったら歩くだけでもいいわ。そうそう。歩く前にしょうが水を飲むといい。チューブのしょうがあるでしょ。あれ持ち歩いて駅からバスに乗らないとかしてしょうがを水やお茶で溶かして飲む。その後歩くと効果的よ」

“そうかなるほど”

 僕は花子に会ってそのことを話した。
「しょうが水のむねえ。うん分かった。やってみるわ」
 そう花子は言って僕達は一週間後に会う約束をして別れた。

“花子ウォーキング続けてるかな”
そんなことを考えながら一週間が経った。
「やあ、花子」
「ああ、ひろちゃん」
 その声に元気はなかった。
「どう体重減った?」
「それが……逆に増えた」
「増えた?なんで」
「何か毎日歩くせいで食欲旺盛になって」
「えーどんな食生活してんの」
「朝は普通にごはんかパンよ。昼は学食、夜は普通に魚だったり、生姜焼きだったり、唐揚げだったり、カレーライスだったり」
「それで歩く時間は?」
「一日十分かな」
「十分じゃ少ないなあ。脂肪は20分以上運動した以降に減るから三十分くらい歩かなきゃ」
「三十分ねえ。しんどいなあ。まあとにかくやってみる」
 僕たちは別れてまた一週間後に会う約束をした。

 一週間たつ前に僕は近くのコンビニに入ったら花子がバイトとしてそこで働いていた。向こうはこっちに気づかず僕は黙ってずっと花子を見ていた。
「飯館唐揚げ補充しなくてどうすんの?」
「すいません」
 花子は卑屈になって謝っている。しかし先程から花子はレジから一歩も動けないまま立て続けに客が来て唐揚げが売れたのだ。補充も何も。そう思ったが花子は健気に言い訳一つしないで働いている。片方のきつい先輩の様な店員はゆっくり店の商品の補充をしていた。お前がから揚げあげればいいのに。
 僕はレジに行って牛乳を買うとそのとき初めて花子が僕に気づいた。
「ひろちゃん」
「花子。後で会える?何時に上がり?」
「五時半だからもうすぐよ。公園で待ってて」
「うん」しばらく公園で待ってると花子が来た。
「ごめんひろちゃん。お待たせ」
「お疲れ。大変だったね」
「本当疲れるわ」
「きつい先輩もいるみたいだし」
「あれは先輩じゃなくて後輩。後から入ってきた人。しかも年下」
「えっ?後輩だったのそれなのにあんな口きかれて」
「店長が彼の方が仕事ができると認めているからよ。でも疲れるわ。毎日毎日怒られてばかりで」
「さっきの唐揚げの件は言い訳できるはずだよ」
「言い訳なんてできないわよ。私そんな勇気ないし。向こうはああ言えばこう言うだし。衝突するくらいだったら、自分が我慢するわ」
「他の人と働くときもそうなの?」
「私はいつもしたてに出て、そういうキャラなの。だから弱い人に笑顔で元気づけるアイドルになりたいと思う。でも現実は厳しい。アイドルプロダクションの人も仕事はまずないけど一応登録だけはしてていいよって。もちろん仕事の電話なんてないし」
 
 僕は黙ってしまった。そして聞きたいことを聞いてみた。
「ところで体重は?」
「えっ?普通聞く?こんな落ち込んでいるときに」
「だって僕は花子が痩せるために全力を注ぐと決めたんだ。この東大生の頭脳を持って」
「それが変わらない。八十六キロのまま」
「三十分毎日歩いてんでしょう?」
「ほぼ毎日歩いてたわ。飲み会の日とかは別として」
「栄養士さんの人から聞いたんだけど野菜中心の食生活。あとイモ類だとかかぼちゃ豆腐などでおなかを満たすようにって……」
「まあ、そうしているつもりだけど……」

僕は一瞬ある言葉が頭の中をよぎった。それは間食という言葉だ。
「ひょっとして間食してる?」
「ギクッ」
「してるって反応だね。どんなものを食べてるの?」
「まあ、漫画を読みながらポテチ食べたりDVD見ながらピザポテト食べたり」
「一回に一袋?」
「それが例えばDVDを2時間見ながら口が寂しくならないように食べると一袋じゃ足りなくて……」
「で何袋?」
「二袋か、三袋。ビールかコーラ飲みながら」
「それが原因だよ。油の塊だよ。間食さえやめれば絶対痩せられるよ。逆に間食止めない限りいくら毎日歩いても無駄だよ」
「間食止めろなんてそんなことできないわよ。私はいつもストレス抱えてるのよ。見たでしょ?さっきのバイト先。私間食止めるくらいなら痩せなくていい。唯一の生きがい。漫画読みながらポテチ食べたり、たっぷりのスイーツ食べながらDVD見たり」

 僕たちの間で沈黙が生まれた。

 しばらく僕は考えた。そして先程の花子のバイト姿を思い出した。僕がその重たい沈黙を破った。
「メンタルだよ」
「えっ?」
「メンタルなんだよ。痩せやすい体質とか太りやすい体質とかあるけど、要はメンタルなんだよ。痩せやすいメンタル。太りやすいメンタル」
「そうね。そういうのあるかもしれない。そして私は太りやすいメンタルなのね」
「今からでも遅くない。ストレスを溜め込まない人間になろう。バイト先でも嫌なことは嫌。悪いものは悪いと言えるようになって自信を持って生きて。ポテチなんかに依存しない生き方になろう」
「ひろちゃんの言うことは多分正しいんだろうな。さすが東大生ね。でも私こういう生き方しかできないのよ。正直今パワハラやセクハラみたいなことを受けているけど、何も言えない。だいたい今の私にそういうこと考える余裕がない。じゃあ私帰る。ありがとういろいろ私のこと考えてくれて。気持ちは嬉しいわ。本当よ」
 そう言って花子は立ち去ってしまった。
“問題になっているのはメンタル。でも僕の心に突き刺さったのは、

『私こういう生き方しかできないのよ』

その花子の言葉だった。
                                 (続く)