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No.27

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 手に持った参考書を投げやりにベンチの上へ置いた。俺の言葉に善明も真理もあからさまにあきれた顔を見せた。善明に関しては若干怒っている、ようにも見えた。そんな二人の気持ちもわからないでもないが、今一番困っているのはこの俺だ。昨日までの自分を首絞めてやりたいけど、それに懲りて今真剣になっているかといわれればノーとしかいえない。今まさに諦めたばかりだ。しかし十七年間で培われた性格はそう簡単にはなおせやしない。そんなの九割方出来ているビルを更地に戻して倍の高さのビルを建てるくらい大変だ。不可能ではない、のだろうけど。
 昨日、俺は同じ言葉を担任にも吐いていた。
「進級できないのならできないで構わないですよ」
呆れた顔をして俺を見ていたが、口から出たのは説得の言葉でも叱咤激励でもなかった。まだ罵倒されたほうが俺としては“契機”か“理由”になったかもしれない。細く長い溜息を漏らした大人に、俺はいよいよ興ざめしてしまった。期待されていないことはよくわかっていたけど、あからさまに期待されていない事に気づいてしまうと、やはり面白くはない。少し前、教師が真理に言った「お前はやればできるんだ」という言葉を暗に期待していたのかもしれない。期待していたのは俺だけだったわけで、教師は俺になんの期待もしていないのがよくわかった。
 ただそれが当たり前の反応であることも、十分理解していた。
 寒気に白んだ溜息が、俺の視界にひとつ。思わず俯いた顔を上げた。溜息を吐き出したのは善明で、隣に座った真理は神妙な顔で遠くを見ていた。あまり肌に馴染まない雰囲気だった。そんな雰囲気を作ったのは自分であるのは間違いないだろう。
 溜息から一拍の沈黙をおいて、善明は口を開いた。
「なにがあったか知らないけどさ。俺だってメリットとかデメリットを考えて勉強教えてるわけじゃないんだよ。真理くんはどうかしらないけど、少なくとも俺は君と卒業したいから言ってるんだ」
「……は、恥ずかしいことを言うね善明くん」
「俺は別に恥ずかしくないけどね。真理くんだって本当は応援してるんでしょ? オメガの参考書なんて君には必要ないはずなんだから」
 ベンチに放り投げられた参考書。そういえばこれは真理に貰った――くれたつもりはないかもしれないが――ものである。
「別に。僕と親友だと豪語するこの男が馬鹿なのは嫌なだけだよ」
作品名:No.27 作家名:戀絲つばき