No.27
勉強を教えてくれと頼んだら、開口一番に辛辣な言葉が突き刺さった。優しいのと善人はまた別であるということがよくわかる。善明は本当に善い人だが優しいばかりではないわけで、どちらかというと厳しいのだ。逆に優しくないと言っているようだが、決してそういうわけではない。
「どうせ家じゃ勉強しないんだろう。基礎ぐらいは教えてあげるよ」
――というわけで、放課後勉強大会イン屋上が実現した。なぜここまできて屋上かというとただ単に真理を巻き込みたかっただけだ。この男、屋上以外のあらゆる教室は使用したくないという馬鹿馬鹿しい我儘を平気な顔で言い放つので、最初から屋上を選ばせてもらった。ひとつ残念なのは、屋上に机がないことだろうか。あ、あと風が少し強いこと。今日はあまり風が吹いていないので絶好の屋上日和だ。
「与えられている数値を代入する」
早くも面倒くさくなってきてしまって、俺はへのへのもへじを2xの隣に量産していた。やはり勉強する環境というのは大切なのかもしれない。
「……真理くん、君からも何か言ってくれないかなあ。彼、季彦くんやる気が見られないよ」
「もういいんじゃない、彼が二年生をもう一度経験することになっても僕たちと卒業できなくても、結局僕たちにはなんの実害もないじゃない」
「真理くん、君もうあきらめちゃったの?」
「仕方ないじゃないか」
読みかけの本をしおりも挟まずに閉じて、ひとつため息。ため息というよりうめき声のような声だった。うええ、と。いやそうな顔をする。
「毎日毎日学校に来る、屋上にくる、お昼を食べる、学校から帰るっていうほぼ僕と同じ日課をこなしているのに学力の差がこんなに出るなんて思わなかったよ。しかも笑顔で呪文ってさあ」
ばしっとベンチが悲鳴を上げそうな勢いで、本を本の山に返す。少し軋む音が聞こえた。真理がこんなに荒んでいるのを俺はかつて見たことがない。
とはいえ。俺と真理の付き合いはまだ一年半と少し。善明はもう少し短い。しかしここにいる三人は出身中学も出身地もばらばらだから、それでも大差はない。でもいま一番荒んでいるのは俺に違いない。参考書にも学友にも馬鹿にされ、何もできないジレンマに苛まれ、とまあ最悪の事態だ。
「もういいよ、本当。俺もう一回二年生やるよ」