No.27
そう思ったのは絶対に誰にも言ってやるものか、と。それだけをひそかに決意した。
次の日からのテスト休みはひどく浮かれてて、その反面、すごく憂鬱だったということだけしか、覚えていない。
そして迎えた休み明け。休みの間、珍しく俺は誰にも会わずにひきこもっていた。
ざわざわ。
二年生の廊下はごった返していた。一組から八組までの生徒総勢三百二十九人。テスト順位を見る為の混雑である。百五十位以下は掲示されない。それ以下の生徒は個別に知らされる。しかしその尻尾に俺はいた。驚くべきことに俺の順位は三百二十一位から百五十位への大躍進だった。いままで勉強しなさすぎだろ俺。
知った名前を探してみると、真理のクラスメイトである俺の級友たちは百番台に固まっていた。あいつら以外とやるんだな。善明は四十二位、美映は六十七位、真理はむかつくことに十五位だった。前回二十七位だった真理も成績を上げていたようだ。どこまでも小癪な――。
とひとりごちていると、余鈴がなった。屋上だと遠いチャイムも廊下だと耳障りな騒音だ。生徒たちは波が引くように自分たちの教室に入っていく。その波の中に美映と善明を見つけ、手を振る。しかし二人は俺には眼もくれず、俺のもっと後ろを見ている。俺は二人に向けてあげた虚しい右手を下ろし、一気に閑散とした廊下を振りむいた。
――ああ。
本当に、そう口に出した気がする。溜息のような、感嘆のような、歓喜のようなうめき声。美映と善明の息をのむ気配も背後に感じた。美映が一組、善明が三組、俺が五組。それから、八組が、真理。八組二十七番が、真理。
「ああ気持ち悪い、気持ち悪い。でも、一人の屋上もなんだか気持ち悪かったんだ」
廊下の掲示板によりかかり、独白のように言う。俺は意味を掴み損ねて、それでも、真理がここにいることは生半可な覚悟ではないのはわかった。
「真理」
俺が呼んだ声は思いのほか響いて、しんとした廊下に微かな残響を残した。
「ここなら戻れるかもしれないって、思ったからかもしれない。気付いたらここにきてたんだよ」
自分への言い訳のように似たような言葉を繰り返す真理。うまい言葉が見つからなくて、頭が痛い。
「真理くん、おれや美映も、このすっとこどっこいも怖いこととか、苦手なことたくさんあるよ」