No.27
善明と美映が順に笑って言った。真理は疲れ切った顔でこちらをみるだけだった。そうだよな、ここ最近図書室につき合わせっぱなしだった。決して楽ではなかっただろう。
「聞いてくれ諸君」
扉の前。美映が登場したのもここ。善明が息が上がって崩れ落ちたのもここ。屋上にはいろいろ思い出がある。進級が決まって俺は、屋上でサボることを止めようと決めていた。
「進級が決まりましたあっ」
「おー」
「ええ、うっそ。後輩になったらいじめ倒そうと思ってたのにい」
「美映、やめなさい」
あ、なんか今心の底から進級できてうれしいとおもったかもしれない。
「よかったね、季彦君」
真理がひゅん、とまた本を放り投げながら言った。みんなして俺に物を投げ過ぎだ。受け取った本の題名は“倫理”で、三年生から使うであろう教科の参考書だった。
「さすが俺の親友、用意がいいね」
「進級が危ういような親友をもった覚えはないよ」
「はっはあ、何とでもいいたまえよ」
「うざ……」
小さい声でもそういうことを言われると傷つくのでやめてほしい。真理は長い溜息を吐いて、俺をしっかりとみすえた。善明と美映は口をはさむ余地を見つけられずに、俺と真理を見比べていた。俺もなにから話していいかわからずに頬を人差し指でひっかいた。
「君」
口を開いたのは真理だった。
「もう屋上ではサボらないつもりだろ」
「えっ、そうなの季彦くん」
真理はどうやらわかっていたらしい。善明が驚いて俺の顔を食い入るように見つめてくる。穴が開きそうだ。
「そうだよ。良い機会だからね、せっかく進級もできることになったし。それに」
もともと俺がここに来るようになった理由なんてくだらない。ひどくくだらなくて陳腐で、それこそ痛々しい青春の過ちで、逃げてただけなのだから。思春期のジレンマによっておこった間違いを正すなら今しかないと思ったのだ。
「そう、そっか」
少しだけ寂しそうなのは、俺の気のせいだろう。
「サボるのを止めるだけだけどな! また勉強教えてくれよ」
「あ、私も教えてよ。善明スパルタで怖いんだもん」
「優しいだけじゃ覚えないでしょみんな」
そういった俺と美映に、しょうがないなって言ってくれた顔がひどく複雑そうで、それに気付いていたのに俺はやっぱり何も言えなかった。
――ああ、俺が親友なんてなれっこないんだ。