No.27
間延び、しているのとはまた違うのんびりとした口調。真理は独特のテンポを持っている。個人それぞれテンポが違うと言われれば、確かにそれは違いないのだけど、真理の場合は少し違う。何が違うというか、何か違う。これは俺の感じ方の問題なんだけれど、急いてもなく怠りもせずただ時間に身を任せてそこにいる、そんなふうに思う。のんびりしてるようで、きっちりしている、というのか。なかなかこれをうまく表現できたことはない。
少し前までの俺ならば喜々として真似しだすところだが、生憎いまの俺は真似したいとは微塵も思わない。
「お疲れモードというよりお怒りモードだろ」
「季彦くん、原因は誰かわかっているのかな?」
立てた人差し指をこちらに倒して、すでににっこりすることを否定した顔が左に少し傾いていた。ちらりと後ろを振り向いて、もう一度善明を見る。
「誰?」
真理の視線は膝の上に広げられた気味の悪い分厚さの本へ向いていた。俺への興味はないんですかそうですか。俺がそうやって善明から興味をすらしていたら、すぐ横まで善明の顔が迫っていた。
「うぉっ」
「きみ、君なんだよ君。季彦くん、お願いだから授業に出ようよ」
「えー。ああー、ううーん」
懇願されて俺は正直困ってしまう。特別理由もないサボり魔は、教室に戻る特別な理由が思い当たらない。なかば欠伸交じりの呻き声を漏らしていたら、愉快そうな顔で真理がこちらを見ていった。
「言語化しなさいよ」
「あっああ。ごめんよ善明君。俺のクラスの委員長でもないのに……ご足労お掛けします!」
会釈とそう変わらないお辞儀をすると、善明はあきらめたようにまた溜息を吐いた。二月にしては鮮やかな青空に不満が混じった。
「今日はもう戻るよ。これから午後の授業も始まるからね。季彦くん、言っても無駄だとは思うけど、君のクラスの次の授業は理科室で化学の授業だよ」
「はいはいどうも」
俺の適当な返事にさらなる返答はなくて、すっかり疲れきった顔を隠すように、屋上の錆びた鉄のドアはばたんと閉められた。
はあ、と溜息量産機が去ったはずの屋上にまたひとつ溜息。俺は溜息吐くほど行き詰ってないので必然的に溜息を吐いたのは真理である。
「季彦君。後期中間のテスト順位学年で何番だったっけ」
「え? えーっと、八位だった」
ひゅるり、とまた風が吹き抜けた。真理の顔が心なしか曇っている。