No.27
しかしおはようよりも欠伸よりも先に言い放ったのはこれだった。善明は疲れ切った終電のサラリーマンみたいな顔で長すぎる溜息をついた。
「まあったく、誰のせいですかねえ」
最近こんなやり取りを毎日のように行っているので、流石に善明もぷちっといきそうだ。そうなると最終手段に出なくてはいけないので、遠慮していただきたい。最終手段、それは暴力という名の愛の鞭だ。あ、逆か。
「あ、ああそうだ。善明さあ。何か伝達を頼まれて遠路遥々ここに来たんだろ」
真理はのそりと起き上がって、正しいベンチの使い方を実践にうつす。ただ普通に座っただけだ。ブラフが過ぎてしまった。
その空色にしては濃く、海色にしては薄い青色のベンチは真理の特等席だった。二つ並んだベンチの右側には真理、左側には数冊の本が積み上げられている。図書室の本だったり、図書館の本だったりいろいろだったけれど綺麗な新品を呼んでいるところは見たことがない。
その真理はきちんと腰を落ち着けた時点で初めて欠伸を洩らした。善明はすでに肩を竦めるか溜息をつく以外のモーションは放棄したらしい。無気力にだれる両腕が哀愁を誘った。
「君たち、進級のかかってる期末試験、ちゃんと頑張るんだよ」
「よ、余裕だぜ! なあ親友」
「親友? ここに僕とよしくん以外に誰かいるの?」
わざとらしくきょろりと辺りを見渡す。俺ら三人以外に人影はない。最近いよいよ泣きたくなってきた。
「まあ僕は特に危険視されていないしね。たまたま勉強したい場所が屋上だっただけだもの」
さらりと酷い我儘をかましている。ところどころいらっとする発言だが、それは正しかった。真理は一年生の六月までしか教室には行っていない。それ以降丸一年以上はこの屋上に登校しているのである。それなのにテスト順位は、飛びぬけて、というわけではないが毎回上位である。自宅で勉強はきちんとしているからね、と笑顔で言われたが逆に疑わしい。
「君たちが親友かどうかなんてこの際どうでもいいよ。君たちが進級できるかが問題なんだ」
弛緩した様に逆さまに倒されたゴミ箱へと腰を下ろした。
「おやおやおやおやお疲れモードですか善明くん」