No.27
最後はほとんど聞き取れなかったが、まあ感謝はされているようだった。
これはあれだ、今流行りの――って少し前にも同じことを考えた気がする。俺の脳は単一すぎていけないな。勉強しなかったツケか。
「美映、あんまりそういうことを言ったらダメだろ」
「はあい」
語尾にハートマークでも付きそうである。ともあれ、二人とも俺と真理いう犠牲を伴いながらも幸せになれたようでなによりだ。嫌味ではない、念のため。でも隣の真理は苦虫をまとめて百匹くらい噛みつぶしたような苦い顔をしていたが。
善明限定の素晴らしい笑顔を見せる美映に、居心地の悪い俺はなんとなくさっき思ったことをぶつけてみる。
「まったくお前は、善明の犬かよ」
「……わん」
こいつ、認めやがった。
8
待ちに待った後期期末試験まであと一週間。待ちに待ったって言うのはほかに語呂がいい枕詞が見つからなかったからつけただけだ。まったく待ってない。
無事カップル成立した二人の邪魔をするわけにもいかず、俺はとりあえず孤独な試験勉強に身を投じた。しかしカップル成立から三日目のことだ。驚くべきことだがあれだけ屋上以外には行きたくないと我儘を言っていた真理が図書室に姿を現した。あのどよめき、俺は忘れない。むかつくことに、真理はこの馬鹿こうこ――ああっと、平均学力の低めの当校では、屋上の偏屈やらという蔑称とは違う、究極の自由人という別称があるのだ。簡単にいえば何も知らない生徒からしたら、自分突き通してるあいつカッケー、みたいな憧れでもあるわけだ。俺は所詮底辺だけどな。何が違う、顔か。
話が大きくそれたが、そういうわけで真理が図書室に来たことは、大きなニュースとして放課後の学校を揺るがすには十分というわけだ。
「おま、ええ?」
「なんだよオバカメン」
「新しいなオバカメン……。ってそういう話じゃなくて! あ、とりあえず座れよ」
「ああ」
数冊の本を持って、俺の向かいの席に座る。見覚えのある本だから、屋上から持ってきたものだろう。
「普段は閉まった後に司書経由で返してるんだけど、今日は司書が休みだっていうし、でもこれ返却期限が今日だからしかたなく」
ばしばしと積んだ本を叩いて、小さな声で俺に抗議してくるが、別に来るなとも来いとも言ってないからそんなにむきにならなくてもいいのに。とは口が裂けても言わないが。