No.27
背伸びの後には弛緩がまっているわけだが、今回はそれに移行する前に驚愕がやってきた。思い切り開かれた屋上の扉。こんなことやる人間を俺は一人しか知らない。真理も同じらしく、ため息が聞こえた。
「美映……噂をすればなんとやら」
「一度扉が外れないと粗暴さは治らないんだな」
美映は肩で息をしてそこに立っていた。急いだせいかわからないが、白い頬が紅潮している。なぜか両の目に涙をいっぱい溜めて、口は真一文字に引き結ばれていた。
「すえひこ! キャッチ!」
何か言ったかとおもえば意味がわからない。と思ったがすぐにわかった。美映は思いきりこちらに何かを投げた。目測とかは一切ないようだったが、とりあえず投げた目標は俺であるということは確かである。そんなに距離がないのでそれはもうすぐ近くに迫っていて、あせって立ち上がりそれを胸で受け止めるようにキャッチする。
ぐっしゃぐしゃになったミルクいちごぱ――。
「ぐえっ」
それをほぼ完璧に黙認する前に、からだの前半身に思い切り衝撃をうける。胃のあたりを圧されて反射的にえづいた。
「み、美映?」
「は――」
真理もぽかんとして美映を見ていた。一番ぽかんとしたいのは俺だ。
美映はパンをやっとキャッチして油断していた俺に、体ごと体当たりするように抱きついたのだ。体格差のせいで美映の頭がちょうど胸のあたりにある。それもすこし頭突きみたいで痛かった。そもそも俺はどうしてミルクいちごパン――ぐしゃぐしゃだが――をもらった上に抱きつかれているのだ。あれか、善明から手頃そうな俺にお鞍替えですか美映さん。
しかしそうでもないらしい。同じように疲れ切った善明が遅れて屋上の扉に現れた。やはり息が荒い。あ、というか授業中じゃないか今。
「ちょ、ちょっとタンマ」
誰も何も急かしてないので存分に休憩してくれ。俺たちに掌を向けて、その場に崩れるように座った。
善明の口元が赤くなっていた。血が出ているようにも見える。殴られた、のだろうか。
「あ、ちょっと美映!」
善明は俺と美映の状況を視認するなり、血相を変えて叫んだ。状況が本当に飲み込めない。救いを求めて真理を見たが彼もまたよくわからないという顔で二人を見ていた。俺と目が合って、首をかしげる。
「おい、美映。愛しの善明君が死にかけてるぜ」
「季彦! 季彦!」