No.27
「こんな話を人にしたのははじめてだよ。ごめん、なんかぐだぐだになっちゃった。言いたいこと言えたのかもわかんないし」
「ううん、それでもいい。教えてくれて、ありがとな」
少しの空白。
「なにそれ気持ち悪ーい。ああ、でも、はは、君にはなんか言えるんだよね。やだなあ、僕も気持ち悪いよ」
「気持ち悪いとかいうなよ傷つくだろ」
「それでも君はここに来るんでしょう」
「あーあ悔しいですがその通りでございますよ」
いつもどおりだった。
でも――遠くで鳴っているチャイムも、ちょっとだけ辛そうに笑った真理の顔も、微かに聞こえる聞き覚えのある声すらも、全部が新鮮に感じた。何かが、確実に変わったような確信。それでも何が変わったのかはわからない。俺は美映の綺麗な泣き顔と、真理の暗い過去と言葉によって、無理やり先に進まされたように感じる。影響されるっていうのか、それもわからないけど、自分が何時までも流れをとめているわけにはいかないことはわかった。
そろそろ俺も、ずっと先を見なくちゃいけないんだな。
7
「あー、それで……美映のことだっけ?」
気まずそうに切り出した真理が面白かった。自分の発言にたいして責任は感じているらしい。聞かなかったことにするのは容易なのに、しょうがないなみたいな顔をしていた。
「あいつ自分が善明に嫌われてるんじゃないかって言ってたんだよ」
「ふうん、わからなくもない悩みだね」
「え、そうなん。それってそういうもんなの」
「日本語を使ってくれよ頼むから」
はあ、とため息一つで今度は古文の参考書を俺に投げてよこした。今度はオメガでなくてデルタだった。ギリシャ文字が大人気だな。
「あと二週間ないんだよなーテスト」
「勉強、してるんだろ」
「まあな。一年ぶりくらいに授業に出たぜ」
ガッツポーズをしてみせると、うんざりした顔を返された。まあ、そうれはそういうもんだろうな。
「でもすごいな。僕にはできない」
「そうかあ? そうだよ、三年生から教室復帰するか?」
「……考えとく」
そう言って自分が読みかけていた本を広げる。具体は避けたか。まあ無理強いする問題でもない。俺はごきりと首を鳴らして、ぐんと背伸びをした。