No.27
「僕中学は私立だったって前に言ったよね」
「ああ、確かもっと都心の」
「付属高校に進む子も多かったけど、もっとレベルの高い高校に進むことを目標にしてる子もたくさんいた。というよりそれを学校は暗に推奨してたんだよね。中学のレベルが高ければ確実に新規生徒の勧誘材料になるとでも思ってたんじゃないの」
ふん、と鼻で笑って肩をすくめる。中学から子供を取り込めば、全員ではないにしても六、七割の子供は高校もしくは大学まで抱え込むことができるだろう。経営は安泰といわないまでも安定はしているかもしれない。私立の仕組みはいまいちわからないけど。そして高校からの生徒や大学からの生徒も含めれば困らないんだろうな。
「ここに来ればどこどこの名門校に進学できる可能性があるって、ね。だからこそ内部競争が激しかった。僕はこの通り大して勉強しないでも困らない人間だったからね」
うざいこと極まりない中学生である・
「と、公言してたわけじゃないよ。なにその顔」
「え、いいや? なんでもないない」
首を横に思い切り振って、先を促した。
「……中学三年はもう戦争だった。わかる? まず校内で僕たちは争ってたんだ。模試の結果、志望校のレベル、定期テストの順位。全国にいるライバルより隣の席のクラスメイトが敵だったんだ」
今、俺がその環境に放り込まれたらきっと敵というより存在しないものみたいになるんだろうな。想像できる気がした。淘汰されて終わり、抵抗のすべなし。
逆に真理はそこで浮いていたのかもしれない。なんとなくで難関を越えて行ってしまうようなやつだ。周りからしたらそれはもう眼ざわりだったに違いない。
「僕、嫌われてたんだよ。でも関係なかった。あんな奴らどうでもいい、僕には僕の味方が絶対いるんだって」
柔らかい冷たい風が吹き出した。風は真理の長めの前髪を揺らした。
「父親は僕が小学校に入学した年に病気で死んだ。母さんと二人でずっと、暮らしてきたんだ。母さんは僕がいい成績をとることを喜んでくれたから勉強も苦じゃなかった」
――だから許せなかった。
最後は、かすれるような呟きだった。
「知らない男が一緒に暮らすようになった。母さんはその男と結婚するつもりだといった。僕は、その時初めて怖いと思った。孤独をリアルに感じたんだ」
がり、とコンクリートの欠片を踏んだ。足の裏が、痛い。