No.27
「だから親友っていう言葉を肯定したがらないんだ。善明の善良さがたまらないんだろう? 美映のあの自由さが恐ろしいんじゃないのかよ」
責めたいわけじゃない。でも俺だってひどいかもしれないが、真理だってひどいことをいった。美映の気持ちは、俺からしたらずっとずっと高みにあって届かないものだ。それをくだらないなんていうから。
違う。ただ、俺が我慢できないだけだ。ああそうだ、思えば気にいらない。俺らばっかり自分のことを話して、真理は一切俺たちに自分を見せてはくれない。そりゃあ、その辺の分別は無いわけじゃないから、本人の自由だってわかってる。俺たちだって頼まれてしゃべったわけじゃない。言いたいのは、あれだ、俺たちはそんなみみっちい友人同士なのかよ、ってことだ。考えてたらなんかむかついてきた。
「ああもうさ、お前面倒臭い! 難しいよ、お前。なんだ、そう、お前難しすぎるよ。俺はなんだ、一年半隣でくっちゃべってただけの有象無象か。善明もおんなじなのか。それとも善明になら言えるのか? どうせ言えないんだろうお前は」
俺を突き刺していた視線をたどるように、俺は真理を見つめ返した。泳ぎもしない、揺るぎもしない瞳は俺の少し後ろを見ているようにもみえる。
「そんなの」
そんな双眸とは裏腹に弱弱しい声。俺は遮ることはしなかった。
「そんなの自分が一番わかってるよ。なんなんだよきみ、親友とか言ったり面倒臭いとか言ったりさきみこそ面倒なんだよ馬鹿! ああ怖いさ、きみもよしくんもあの女も怖いよ、凄く怖い。怖くてたまらないから……っ」
クレッシェンド記号でも着いていたんじゃないか。尻上がりに大きくなる声に、最初に大きな声をあげた俺の方が気押されてしまった。何も言い返せない。真理の顔があまりにも美映の、怯えた顔に似てたから。これは泣く前のひとの顔だ。泣きたいひとの顔をしている。
「ひとりになるって、怖いんだよ。なあ、人が離れていくって恐ろしいことなんだ。わかるか? わからないだろ。人と関わりたいのにその先が怖くて怖くてたまらない僕の気持ちがわかるのかよ」
乱雑な言葉に俺はすこしだけ、安堵した。きっとこれが真理の本当なんだろう。名前が真理なんていう、誰よりも正直そうな名前なのに一番たくさんのことを隠してるんだ。でも、本当は正直になりたいのかもしれない。