No.27
真理の相槌は想像よりもずっと冷たかった。確かに馬鹿にしてないし冷やかしもしてない。でも、なんていうか、興味が一切ありませんとばかりに抑揚のない声だった。そ、と、うという二文字だけの短い相槌なのに、俺は真理の“どうでもいい”感じが伝わってくるようにおもった。
「くだらないよね。ヒトを好きになってみたり嫌いになってみたりって。そうおもわない? ああ、思わないか。君は思ってるほど曲がった人間じゃないからね」
足先から俺へ、スライドしてよこされる視線が初対面の時よりずっと冷たく感じて寒気すら感じた。外気のせいだけじゃないはずだ。
「あんなの誰かを傷つけて終わりだよ。たとえ両想いなんかになっても、待ってるのは別れだけじゃないか。大人でさえうまく扱えないものを、僕達みたいな子供が上手に抱え込めると思う?」
目をそらしたいとおもったが、真理の双眸はそれを許してはくれなかった。俺を凍らせるような、縫いとめるような視線が、ぐっさりと俺に突き刺さっている。自分の軽口をこんなに恨んだことは初めてだ。のんきに生きてきた証拠だろうな。
重たい、質量があるような眼差し。真理のなにか、深いところの重たいものがのっかっているのだろうか。
俺は、真理が屋上登校している理由も、真理が人とかかわることを避ける理由もしらない。それでも真理は、関心がない、のではないのだとおもう。なんとなく、って言ってばかりの俺だけど、やっぱりなんとなくそう思う。
――自分のいないところで自分の話をされるのはあまり得意じゃないんだ。
たぶん本当は誰よりも他人が気になるのだろう。人が嫌いなんじゃなくてたぶん怖いに近いのかもしれない。美映が、善明に嫌われることが怖いといった。その恐怖をずっと肥大化したような気持ちを真理は抱えてるのかもしれない。
「お前さ」
俺はたぶん確実な間違いを起こそうとしている。しかしその逆になる可能性も十分に持ち合わせているだろう。昨日よくわかったはずの、無知の残酷さ。優しさの残酷さ。そんなの、俺はただの高校生だから理解出来やしない。いつかはするのかもしれないししなきゃいけないのかもしれない。でも今はそんなのわからないって言って、だから、それで――だからこそ、言えてしまう言葉もたくさんあるだろう。
「お前って、怖いんだろ。俺も、善明も、美映も。本当は怖いんじゃないの」
「は、なにを」