No.27
俺はもう何も言えなくて、曖昧に笑ってもう一度肩をすくめた。このボディランゲージはとても便利である。
それから当分の毎日は、二人のふわっふわした意味のわからない会話を聞く羽目に会ったのだ。二人がすっかり打ち解け、真理が善明を“よしくん”と呼ぶようになるのはそう長くはかからなかった。
やっぱり俺の立場はぐらぐらしているのである。
6
懐かしいことを思い出した。俺達が三人で昼食を食べてた時、美映が乱入して大暴れしたのも今ではいい思い出だ。被害は甚大だったが。ああ思い出したくない。うん、忘れるに越したことは無いな。
「季彦君、なにがあったのか知らないけど悩むのか笑うのかどちらかにしてくれよ。凄く気持ちの悪い顔になってるから」
「へ」
長ったらしい回想を終えて意識が戻ってきたところで、ここは屋上である。今日隣にいたのは真理だ。昨日まで俺が座っていたところにいた美映はここにはいなかった。善明も今日は姿を見ていない。勉強に一区切りついたので七日、いや八日ぶりに俺は屋上に来ていた。
「てっきり屋上には飽きたのかと」
「おいおい、真理までそんなこと言いだすのかよ」
「ふん、君なら言われても仕方ないんじゃない」
鼻で笑われて、正直凹む。いやたいそうなことではないのだけど、どうにも信頼が薄いというか。俺としては真理は信用できる奴だと思うし、頼ってる部分もあるのだが友人として逆は皆無だ。それはもうなに、俺ひたすら享受! みたいな感じだ。これは果たして親友というのか、むしろこれは友人ですらないのではないだろうか、とか。思ってみたりするけど無意味な気がするのも確かだ。
「まあ女心って難しいよなってはなし」
「ほうほう色ごとに夢中で忙しかったわけだな。ここで心配してやった俺と善明くんの時間を返せ、今すぐにさあほら」
「え、なに心配してくれたの? やだなあ、違うよ美映のことだよ――。……あ」
心配という二文字にすっかり気を良くして口がゆるっゆるになってしまったようだ。言うなとは言われなかったが言ってほしいことではないだろうに。美映、すまん。
「あの女がどうしたんだよ」
「あ、ああ。善明のこと」
意を決して善明の名前を出してみる。真理は驚くこともなく、馬鹿にすることもなく自分の足先の方へ視線を流すだけだった。
「あいつらああで複雑みたいだぜ」
「そう」
「そう、って」