No.27
これもまったくの当てずっぽうである。こういう第一印象と現実の相違が少ない人物に会ったことがなかなかないので、なんだか楽しかった。そんな感じで、俺はこの時初めて善明を知人として認識した。それまではまあなんとなく存在は確認してるけど関係は無い同級生というくらいにしか思ってなかったので大出世である。
「おれ季彦くんてキヒコかと思ってたよ」
この間違われ方はいささか気に食わなかったけれど。
それからというもの、俺は真理と着々と親交を深めつつ善明と販売機前で語らうことが日課のようになっていた。我ながら乾いた青春である。このころはまだ若干の危機感があったため授業にも出席していた。だから二年生に上がることができたのだ。九割寝てたけどな。自慢にならないことは重々承知である。
――真理の話がでたのは善明のほうがきっかけだった。真理は自分のいないところで自分の話をされるのが好きじゃないらしいので、俺から話を出すことはその時まで一切なかったのだ。真面目そうな善明がそんな俗っぽい話を持ち出すとは思っていなかったので拍子抜けしてしまったのを覚えている。
「屋上にいる彼、ええっと」
「真理のこと?」
「そう。彼って一時期人間じゃないとか、コネで卒業できるから授業に出なくていいとか言われてたけどその辺どうなの?」
「意外な噂に興味津津だね善明くん」
思わず苦笑い。善明はすこし気まずそうな顔をしたが、好奇心が上回るらしくちらりと言葉を促すような視線を送られる。最低限なら真理も怒らないかな、とおもって口を開く。
「はは、ちゃんと人間だよ。ご飯食べるし家帰ってるしコンビニとか行くらしいし。コネは無いんじゃないかな。彼もテストは受けてるみたいだし、勉強もしてるよ」
当たり障りない情報を選んでみたが、なんだか俺自身もこの時点で真理のことはよくわかっていなかったかもしれない。今でこそ、なんとなく好きな物とか嫌いなものとかがわかるようになった気がするが、あくまで気がするだけである。何度も言うがなんとなく精神衛生上の利害がたまたま偶然一致したような組みわせなので、深淵とは程遠い。