No.27
律儀な善明の言葉を遠回りはしたがしっかりお断りする。下手に気を遣わせるのもあまり好きじゃない。
「ついでだよ。わざわざ買ったりしない。それならまだいいだろ?」
「お、おう」
にっこりと言われてしまうとなぜかひけなくてあっという間に俺は陥落してしまったのだ。意志が弱いのも困りものである。
と、これが最初。なかなか劇的な出遭いのようだが、俺の中で真理との出会いが衝撃的すぎてあまり強い印象は残らなかった。
次に会った時に美映はいなかった。屋上ではなく販売機前のベンチでぼうっとしてたときである。俺は数日前の出来事を半ば忘却していて、善明のこともなかなかぴんとこなかった。
「先週ぶり、元気?」
「まあぼちぼち」
「そっか」
善明はやはり律儀だった。俺を訪ねた両手には一つずつミルクいちごパンを持っていて、人のよさそうな笑顔を俺に向けていた。俺は善意を踏みにじるのも難なのでありがたく受け取った。
「でも本当にサボり魔なんだね君」
がこん――とオレンジジュースの缶を販売機が吐き出す。買ったのは俺ではなく善明だ。俺の隣に座って、真剣に今の台詞を言ったものだから少しだけ面白かった。
「ほら、噂ってあてにならないじゃないか。でも見る限り今回は本当みたいだね」
「嬉しそうに言うなよな」
「ごめんね。そうだ、すっかり忘れてたけどきみの名前ってスエヒコって読むんだって?」
これまた嬉しそうに俺を見るものだから、どういう反応を返していいかわからずに曖昧に笑い返した。
「すごい変わった名前の読み方だよね。いいな、おれは基本的に間違われる名前じゃないからさ」
そうやって笑った善明の名前を俺はこの時点では知らなかった。むしろ向こうが知っている方がおかしいのであって俺が知らないことはひどいことではない。興味が無かったとかそういうのでもない。断じて。
「えーっと」
「善明」
「ヨシアキくんは善人の善に明るいの明かな」
「凄いね、知ってた?」
まったくの当てずっぽうである。善明の両親に会ったらまず、逆名にならなくてよかったですねといいたい。まったく名前通りに育っているのもまた面白いものだ。
「善明くん、て学級委員ぽいよね」
「善明でいいよ。あれ、それも知ってた?」