No.27
俺の落とした小銭を拾いながら傍らの女子を叱る。それが善明だった。叱られた女子が、美映である。それにしても美映の図々しい発言には驚かされたものである。自分も大人げない人種であることは否めないが、この時はさすがにこいつガキくせえなと思ったものだ。その認識は長いこと覆されることは無かったのだが。
「いや、こっちこそなんかごめん」
ここで謝っちゃうのが俺。いまだに謝った意味がわからない。
「あ、小銭全部ありますか?」
「え? あ、ああ。あるある平気」
掌に落とされた小銭を確認する。キチンとミルクいちごパン分乗っかっていた。
「で?」
ごく自然な流れの発言だったから、俺もしくは善明か美映の発言のようだが違った。購買のおばちゃんがショーケース越しに俺達の方をにこにことみていた。発言主は彼女である。
「あ」
思わず小さく声を洩らした。すっかり声をかけたことを失念していた。
「で? 結局どっちが買うんだい」
俺はここでなぜか人差し指で美映と善明をさしていて、結果として二人に譲るというちょっとかっこいいことをしてしまっていた。ここは多少恥ずかしくても俺って言っておくべきだった。それくらいには食べたかった。
「はい、じゃあ百五十円ね」
美映が食べたがっていたはずだが支払いをしたのは善明だった。手下か何かなのかと一瞬考えたが、こういう愛の形もあるよな、と勝手に納得することにした。
「ごめん、ありがとうね」
「いや、いっつも食べてるし。譲り合いの精神は大切だよね」
お前もだよ、とちらりと美映の方を見たがちっとも気にする様子もなくすでにパンを食べていた。幸せそうでなによりですよお嬢様。
「あ、そうだ。今度二つ買えたときにはきみに持って行くよ。三組の人だよね」
善明は人のよさそうな笑顔で言った。この時は、自分のクラスが把握されていたことに驚いたものだ。思い返すと二人との出会いは驚かされてばかりである。
「あ、でもきみ教室にいないんだっけ」
「そんなんも知られてるの俺」
コロッケパンを買いつつ、なんとなく会話を続ける。
「きみがサボり魔なのはもう有名じゃない」
「高校生にもなってガキ臭いわよね」
お前に言われたくない。善明も笑顔がまぶしすぎる。
「普段どこにいるの?」
「あー屋上かな。うん、あとは販売機前のベンチとか。いやでもいいよそんな気ぃ遣わなくて」