No.27
へへ、と笑ってもくもくとパンを食べ始める。俺もそれにならって、半分以上残ったピンク色と白色にもう一度齧り付いた。すっかり真っ暗で、そろそろ下校の放送が流れるだろう。遠くで部活動の掛け声が聞こえているから、もう少し、大丈夫だろう。それでも星が見えないのは、たぶん昼間も曇っていたから。冬の夜に星が見えないなんてつまらないなあなんて考えながら、甘ったるい、でも柔らかくて優しい味を噛みしめた。
いつのまにか隣から聞こえてきた嗚咽には、なんの声もかけられなかった。こんなに人を好きになったことなんて一度もないから俺には理解してあげられない。こうやって美映を泣かせているのは無知な俺なのかもしれない。それともやはり善明の残酷な優しさだろうか。どちらにしても、高校生の中途半端な純粋さというのは酷なものなんだなと思った。
「美映、俺はお前が凄いと思うよ」
ただ一言がやっとで、俺は現実を遠ざけるように目をつむった。
5
俺が善明や美映とであったのは、真理と屋上でサボるようになってから最初の冬だった。ちょうど一年くらい前だろうか。思い返してみるとそんなに長い付き合いではないのかもしれない。
きっかけは前述の通りの“ミルクいちごパン”だ。この高校には購買しかないのだが、なぜかその購買にミルクいちごパンが売られてる。うちの学校には奇しくも入荷量以上の愛食者がいるらしく、それなりに競争率が高い。
その日も俺は昼食としてミルクいちごパンを手に入れるべく購買に来ていた。すでにその頃はいろんな蔑称をつけられるレベルでサボり魔として認知されていた。流石に全校レベルではなかったが、同じ学年の奴らにはすっかり底辺扱いをされていたはずだ。そんな俺に神様だけは優しかったらしく一つだけ売れ残っていた。
「わーい、おばちゃんミルクいちごパンちょうだ――」
「あ!」
「うわあ」
言いきる前に誰かの高い声に驚いてしまった。ちゃりん、と用意した小銭がおちた。
「うああ、ごめん。美映、突然大きい声だしたらだめだろ」
「だって私のミルクいちごパン!」