No.27
「よしくんの私に対しての態度は、本当に特別なんだって。特別みたいでうれしい、から、私特別扱いされてるんだって変わったの。そこからかな、今みたいに恋愛に変わったのは」
ひとくち。美映がようやくパンをかじった。ひゅうと風が吹いた。
「なるほど、ね」
「だから嫌われるのは怖いの、ひとつの恐怖なのよ。最近、特に冷たく感じることが増えた。なんか、ちょっと昔とは違うわ」
「でも」
「わかってる。わかってるわ、先に変わったのは私よね。わかってるわよ、馬鹿」
美映は、馬鹿という言葉を俺にむけて言ったのか自分にむけて言ったのか。焦点の合わない笑顔が俺にそう思わせた。
「俺が言えることは少ないけど」
今度は俺の番だ。
「善明は美映のことちゃんと大切に思っているよ。でもあいつ言ってたんだ」
美映は不安を追いやるようにもう一口パンをかじった。口をはさむ気は無いらしい。本当、珍しい。
「好きだけど好きじゃない。ライクだけどラヴじゃない。だから、美映が好きといってくれる気持ちに、応えられない自分が辛いんだって」
美映は何も言わない。辛そうに見えたけど、気丈な顔をしていた。
「善明はたぶん、本当に美映を大切にしてきたんだよ。もしかしたら最初に好きになったのはあいつかもしれないね。でも、なんていうのかな。お前はもうあいつにとって大切な家族みたいな存在になってるんだよきっと。だから、逆に自分感情へセーブをかけちゃうんじゃないかな」
よく、わからない。自分でも取り繕ってるように聞こえる。慰めにすらなってないのではないだろうか。善明のことは善明にしかわからない。俺は善明について推論するしかないのだ。美映もそうだろう。みんな自分のことは自分にしかわからない。だから不安になるのだ。でもそれは今の言い訳になりえるだろうか? 俺にはよく、わからない。
隣で無言だった美映は意志の強そうな瞳を細めて、そんな矮小な俺に笑顔を向けてくれた。いつもの見下すような笑いじゃなくて、まるで善明に向けるような柔らかい笑顔で、少しだけどきりとした。
「ありがとう、すえひこ。そっか、よしくん私のこと嫌いなわけじゃ、ないんだ。でも、そっか。うーん、これは脈なしかなっ」