No.27
飽きた飽きないで物事を取捨選択するような人間ではない。決してない。そもそも今回は屋上のメンツによるところが大きいのだ。何も知らない有象無象にとやかく言われたくはない。ちなみに有象無象はよく真理が使うので意味もきちんと把握できている。念のため。
「え、まあ、そう思いたいならそう思ってればいいんじゃない?」
――害はないし、と付け足した。
「人の噂は七十五日というけど、悪事千里をはしるともいうのよ。屋上の偏屈やよしくんは真に受けて幻滅するかも」
「あー、まあ二人とも悪い意味で素直だからな」
「よしくんは善い意味で素直よっ」
んもう、と憤慨した様子の美映は、何度か深く呼吸をするとガサリとスーパーの袋を持ちあげた。俺はわけがわからず、首をかしげた。そして美映はふんと得意げな顔で俺を見下ろした。
「ミルクいちごパンでらっくすよ。カゴメスーパーで最後の二つを入手してきたわ」
「お、おお……まぼろしの」
本当はまぼろしでも何でもなく、売れ残るから量を入荷してくれない商品というだけだ。俺と美映はこのパンを長いこと愛食しており、購買にこれが売っているのは非常に助かっている。
そういえば美映と善明と出遭ったきっかけもこのパンだったか。
その話は後回しにするとして、いま美映が俺に示した名前はミルクいちごパンでらっくすだ。この商品は白とピンクのパン生地にミルククリームが入っているというものなのだが、でらっくすの場合ミルククリームのほかに練乳ソースが入っているのだ。あと若干大きい。通常版デラックス版ともども見た目のせいか何か風水的な要因なのか売り上げが芳しくないらしい。そんなこんなで入荷数が僅少なミルクいちごパンでらっくすを二つも確保してきた美映を、今ばっかりは猫っ可愛がりしたいくらいだった。いや、うん、しないけど。
パンについて熱く語り過ぎたが、美映は顎で出入り口を示した。
「外で食べない? ちょっと、ちょっとでいいから話を聞いてほしいの」
「相談事なら任せなさい。なんでも言ってくれて構わないよ」
俺は超特急で荷物をまとめると、さっさと出入り口に足が向いていた。がさがさとビニール特有の音を立てながら美映も後ろについてきた。美映が俺に相談なんて、善明のことだろうか。普段の彼女からは一切想像できないしおらしさに俺は多少の違和感は感じたが、人間生きていれば色々あるものである。