No.27
ここ数日数学をメインに勉強してきたせいで飽きてきてるのか、無意識に英語のノートをめくった。基本的な事項は何とか頭に放り込んだが、テストで点の取れる知識ではないだろう。先が見えない勉強がこんなにも苦痛になるとは思ってもみなかった。善明もすごいけど、真理も一年近く同じ状況だったのに勉強していたという事実がすごいとおもう。自習勉強はペース配分が難しい上に、理解度が自分で確認しにくい。まったくモチベーションが上がらない。これ、意味あるの? という禅問答が気づけば脳内で繰り広げられている日も少なくない。所詮は俺の能力不足なのかもしれないが。
そうして授業と自習勉強に追われる毎日が一週間続いているわけだ。屋上へと行きたいのだが、あそこへ行けばきっと俺は一気に今の態勢が崩れてしまいそうで自然と足が遠のいた。もういいや、ってなるのが今は一番おそろしいことなのである。
というわけで、久々に真理に一切会わない日が続いている。担任が目をぱちくりさせて俺を見たときは愉快でたまらなかった。
こういうところは子供っぽいまま変化が無いらしい。俺、やればできるんだぜ。っていう主張をしたがるいやしい奴なんだよ、俺。
「すえひこ」
鹿野田女史から借りた英語のノートをぱらぱら捲っていると、こちらも久々な人間に名前を呼ばれた。出入り口に対して背中を向けていたので一切気付かなかった。真後ろで聞こえた声の主を、首を後ろに六十度ほど倒し確認する。
「おー美映じゃん、どうしたの」
「いや、あんたが真面目に勉強してるって言うから」
気持ち悪いものを見るような眼で、美映は俺を見下ろしていた。そんなに俺が勉強しているのはおかしいか。
「うちのクラスでも話題になっていたわよ。噂の底辺サボり魔が授業復帰したって。その上やたら勉学に励んでるって」
「わあ、俺ってば人気者」
「もう屋上には飽きたんだろうって」
「は?」
首を起こして体ごと美映の方を向く。見下ろされている感覚が消えた。美映は腕を組んで仁王立ちだった。善明がいたらおこるな。
それよりも、なんだって? 俺いつからそういうキャラに設定されたの?