No.27
真理は俺の劣等感をうまく和らげてくれるのだ。口にした曖昧な言葉をきっちりと言語化してくれる。否定も肯定も平等にきっぱりと伝えてくれる。俺が真理に何かできていたかは今もわからないが、拒絶はされなかった。それから今日まで、俺たちは飽きずに屋上にへばりついている。よくよく考えると今、憎まれ口を叩き合ってることは、奇跡に近いかもしれない。俺があの日サボらなければ、真理が俺に声をかけなければ、こんな今はないのだから。
そして二度目の夏も通り過ぎて、気づいたら冬も終わろうとしていた。大きな問題を抱えたまま、ではあったけれど。
4
とん、とん。オーク材の机は、シャーペンによるノックに柔らかい音を返した。この一週間で俺は高校で学習する一年分の数学および主要七教科の復習を強いられていた。テストまでは二週間と四日。長いようできっと短いモラトリアムだろう。
俺が今座っているのは屋上のベンチではなかった。かといって教室の椅子でもない。古臭いオレンジの合皮張り、机と同じ焦げ茶のオーク。座り心地はまあまあ。ちなみにオーク材と判別できるのは視線の左端に机の材質表示が貼られているからである。なかったら俺がオークかどうかなんてわかるわけないじゃないか。あれ、オークって何の木だ?
生徒も疎らで静かな、ここは図書室である。なぜ俺がここにいるかというと、端的言えば勉強するためだ。あのスーパー青春タイム――善明が聞いたら怒りそうだが――から俺は変革を遂げたのだ。イノベーションというやつだ。授業に出席してノートをとってみたり、一切の寄り道もなく家帰って勉強してみたり。クラスメイトは「お前さぼりすぎなんだよ」と肘鉄付きで迎えてくれ、今俺の前には貸してくれたノートが山積みになっている。ここで数学を貸してくれた山田くんに一言言いたい。ごめん、カラフルすぎて俺にはさっぱり要点が見えないよ。