No.27
まあ、悪い奴ではないんだよな、本当。
3
なぜ自分はこの路を選んだのだろうか。なぜ自分は現状を受け入れていられるのだろうか。なぜ自分はこんなところで簡素な数字を追っているのだろうか。
高校一年生の夏だった。俺は今よりもずっと子供で、カッコつけてくだらないことを考えることが好きだったように思う。中学で克服できなかったたくさんの劣等感が、折り重なってくだらない思考を量産していた。
確か中学三年のとき隣の席だった橘谷某は隣市の名門校に進んだんだ。俺と橘谷は親友とか仲間とかそういう深い間柄じゃなかったけど、消しゴムを借りたりシャーペンの芯をあげたりするくらいのごく普通の友人同士だった。そういうシンプルな関係のせいで余計に、自分との差を知らしめられた気がたものだ。中学最後の日、すごく落ち込んだ記憶がある。
――あと、そういう奴ほど、良い奴なんだよな。
今じゃこんなサボり魔な俺も、はじめはキチンと出席していたのだ。ときどき居眠りして怒られたりとか、そういう普通の生徒だったはずだ。
おそらく、きっかけは七月の暑い日、屋上であいつに出遭ったことだろう。
ぎらぎら、地球になんの恨みがあるのか灼熱の太陽光線がコンクリートを焼いていた。初めて俺は授業を更けて、暑いとわかりきっている屋上の扉を開けた。まぶしさに一瞬視力が落ちるのを感じて、強く目をつむった。そしてそろりと目をあける。二つの青いベンチ。倒れた鉄製のゴミ箱。ベンチは初めて屋上を見たときとは違う、日陰になる位置にずらされていた。ゴミ箱だけが熱に晒されている。
その青いベンチに座って、汗もかかずに教科書を読んでいる男がいた。傍らに辞書が数冊積まれていて、夏物の制服で露出している肌は気味が悪いくらい白い。俺は冗談抜きで幽霊が出たのかと思ったものだ。
そう、これが俺の真理への第一印象だ。
俺は頬に伝う汗で我に返り、空いている隣のベンチに腰掛けた。そのまま数分が経過し、なにをするでもなくゴミ箱と隣の真理を交互に観察して過ごす。ちらりと真理がこちらを怪訝そうにみた視線を捕まえて、負けじと値踏みするような視線を送り返してみる。
「君、授業中だよ」
「知ってる」
「サボりは感心しない」
「お前だってサボりだろ」
「失敬な」