No.27
「いつからおれはきみのものになったんだよ。何か用があるなら聞くから仁王立ちは止めなさい」
「はあーい。特に用は無いんだけど、よしくん禁断症状が出そうだったから再充填に来たよ!」
小柄なからだは跳ねるように歩く。そういうところもなかなか可愛らしいのだがやっぱり俺も真理もピンとこないというか、まったくときめかない。善明も同じようだが、彼もまた普通ですみたいな顔してずれたところがあるからよくわからない。
「何時から常習性のある物質になったのかな、おれは。美映、今日は勉強教えなきゃいけないから空気読んで帰りなさい」
「えええ、やだあ。今日ばっかりはやだあ」
「いつもじゃねえか電波」
善明の腰のあたりに纏わりついて離れる兆しのない美映に、隣の真理が絶対零度の眼差しをおくる。呟いた言葉も相俟って、すごく怖いことになっている。
「真理くん顔がマジで怖いよ。あと彼女は電波っていうよりストーカーだよ」
こっそり耳打ちしてみたら案の定――なのが悔しいが――拳が飛んできた。今回はわき腹だった。
美映は善明と小学校の頃からの友人同士である。ただ入学前から家が近所で幼馴染に近いらしい。その善明が言うには小学時代にはこんな風にべったりというかべた惚れ状態でなかったという。善明はその理由を知らないと言っていた。善明が言うには美映のことを嫌いではないし、むしろ友人としては大切にしたいがどうしてもラヴは無いという。あくまでライクで、そういうすれ違いは少し辛いとも漏らしていたのを知っている。美映が本当に何も考えていないのなら、たぶん決定的な何かが無ければ何も変わらないだろう。もし美映の中に大きなものがあるのなら、善明が変るかもしれない。
と、俺があれやこれや考察したところで誰も喜ばないだろうからもう止めるけれど。
「美映、今日の夜新しいゲームを持って馳せ参じてあげるから大人しく家に帰りなさい」
苦笑いの善明の言葉に美映は瞳を輝かせた。
「ほんと? やったー、じゃあ先帰って待ってるねっ。後でメール頂戴」
「わかったよ」
もう一度美映はやったあと小さく笑った後、頑なに離れようとしなかった善明からあさっり離れ入口へと駆けて行った。屋上を後にする前に一度、こちらを振り返ってひらひらと手を振られたので適当に振り返す。善明用の素敵な笑顔ではなく、ぶすくれた対男子用の顔だったけれど。