夜のゆびさき 神末家綺談2
マコトは消えてしまったのだ。
「地蔵さんに連れてかれた・・・?」
呆然と呟く朋尋の言葉を聞き、伊吹は弾かれたように階段に戻る。
「伊吹!」
朋尋が呼び止めるのも聞かずに、伊吹は階段を駆け上がる。二階の廊下を猛然とダッシュし、地蔵の前で止まる。
地蔵はそこにいた。想像していたよりも小さい。細い目で微笑んでいる。どこにでもある普通の地蔵だ。
「・・・マコトの、」
地蔵の足元には、懐中電灯が落ちていた。マコトが持っていたものに間違いない。
嫌な予感がざわざわと足元を駆け抜けていくのがわかる。真夏だというのに体中が冷たくなっていくのがわかった。ここは危険だ。いや、危険なのは始めからわかっていたのに。
「嘘だろ・・・」
追いついた朋尋が愕然とした声で呟くのを聞き、膝が折れそうになるのを必死にこらえる。
(どうしたら・・・どうしよう・・・)
そのとき再び。
ギシギシッ
すぐそばの教室から床を踏みしめる音が聞こえた。
「マコト!」
「朋尋だめだ!」
きびすを返した朋尋の腕をとろうとしたが、間に合わない。朋尋が教室に飛び込み、伊吹はすぐさま追う。しかし。
「・・・朋尋っ!」
教室に朋尋の姿はない。青白い月明かりに照らされた、物言わぬ机の列が、静かに佇んでいるだけだった。
「朋尋・・・」
二人が、消えてしまった。どうしよう。
(俺がなんとか、しなくちゃ・・・)
折れそうになる心を何とか奮い立たせ、伊吹は滲んだ涙をぬぐう。
「絶対二人を見つけて帰る」
声に出して己を奮い立たせる。
音もない旧校舎に残された伊吹は、一人地蔵と対峙する。
作品名:夜のゆびさき 神末家綺談2 作家名:ひなた眞白