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D/A循環スパイラル

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「そーいや、洋一はどこの大学行くの」
「まだ決めてないけど、目星は付けてる」
「そっか」
「一樹は?」
「まだ、……進学か就職か決めてない」
「え、お前まずいだろそれ。っていうか成績も悪くないんだし大学選べばいいのに」
「勉強したくない」

 さっきのムードはどこへやら。思いがけず始まった学生らしい現実的な会話。
 一樹は語尾を伸ばしてみたりと幼い言動が目立つけれど、別に頭が悪いわけじゃない。毎回テストでは学年30位以内には入っている。俺は大学進学と決めて入るものの、下から数えたほうが早いというような成績だ。
 今は、高校二年生の冬だ。

「一樹はどうしたいんだ、将来」
「うーん……何にも思い浮かばないや」
「ニート?」
「それはいやだ」

 一樹はこたつ布団を肩まで持ち上げて、あたたかさに目を細めている。そのせいで俺の方には風ばかり送り込まれていてとても寒い。

「じゃあなんだよ。まさか将来なんてないとか言わないよな」
「そうだ貰ってよ、俺のこと。専業主夫やるから」

 死にたいが口癖の彼の言いそうなことだった。将来なんて死ぬからないもん、だとか。
 しかし予想に反して、返ってきたのはそんな明るい将来だった。

「おーいいぜ貰ってやるよ。お前より一緒にいて楽しい彼女が出来なかったらな」
「……ばか、そしたら俺駄目じゃん。すぐポイっ!じゃん」

 一樹は今にも泣きそうな顔で俺を睨んできた。軽い冗談のつもりで言ったのに本気で捉えられてしまったようだ。
 もちろん、彼よりも一緒にいて楽しい彼女なんてきっと見つからないだろう。もしも一樹に嫉妬せず俺をフラない彼女ができたとしても、俺は一生一樹には親友でいてもらうつもりだ。ポイッ!なんてできるものか。
 だから、そんなにも泣きそうな顔して欲しくない。

「俺、ね」
「ん」
「ずっと、小学校の頃からずっと、親に邪魔だって、そう言われてきたんだ」
「でもお前の家族、優しくていい人ばっかじゃん」

 唐突に一樹はそう語りだした。何度か一樹の家に行ったことがあるが、全員笑顔で俺を迎え入れてくれた。まるでドラマの中の家族のように幸せそうな雰囲気で、とても優しかったと記憶している。
 にわかには信じがたいその告白に、俺は驚いた。

「それ、外面。家じゃあみんな喧嘩ばっか。母さんと父さんは毎日冷戦状態だし姉さんは母さんと毎日喧嘩してる。父さんは俺のこと嫌いだって毎日言ってくるし、姉さんも母さんも、俺は邪魔だって言って必要な分の金だけ渡して。まあ金だけが取り柄だからなあ、ウチの親」

 死にたいと言っているときと同じ表情で、一樹は語る。声は冷たくて、まとっている空気も張り詰めている。

「お、まえ。だから俺の家にいつも居るのか」
「だって洋一の隣って安心するから……生きててもいいんだなって思えるんだよ。でもね、俺。家族に邪魔だって言われ続けるくらいなら、しにたい。産んでくれた人からそんなこと言われると、やっぱりね。自分なんていなければよかったって思っちゃうんだよ」
「お前の勘違いとかじゃないんだな」
「さすがに物心ついたときから言われ続けてるから、勘違いとかじゃないよ。……それに消えろ、とも。じゃあ消えてやろうかってね。イライラして家族の前でカッター腕に突き付けてみたけど何にも言われない。姉さんにはやってみろって言われた。でも、俺、出来なくて、でき、なくて」

 言葉が詰まり始め、一樹はぼろぼろと涙を流し始めた。語ることも、そこでやめた。
 そうしてこたつ布団をおろして立ち上がると、俺の隣へと移動してきた。こたつの中に足を入れてからすぐに俺の肩に頭を乗せてきた。少し髪を撫でてやると、小さく笑いながらくすぐったそうに身を捩った。涙の勢いはどうやら弱まってきたようだ。

作品名:D/A循環スパイラル 作家名:黒崎苑雨