D/A循環スパイラル
「実は死にたくないんだろ、お前」
「怖いもん、しにたくないよ」
「でも死にたいのかよ。矛盾しすぎ」
「おかしいかな」
「全然」
「そっか」
俺は一度も死にたいと思ったことはないけれど、たぶんそう思っている人はたくさんいる。むしろ死にたいと口に出せる人ほど死にたくないのだ。死にたいという言葉は、その人にとっての危険信号なのだろう。
一樹は、ずっと危険信号を点滅させていたのだ。
「あのさ、一樹」
「んー?」
放っておけない。ずっと一緒にいたのに、気が付けなかった。小学生の頃からの親友だというのに初めて知った事実に、俺は怒りしか感じられなかった。
親がいない俺からしてみればいつも優しい家族に囲まれて、家に帰れば必ず誰かが出迎えてくれる。一樹は羨ましい存在だったのだ。しかし本当は、彼には優しい家族も出迎えてくれる人もいなかったのだ。金は貰えているのだから十分だろう、なんてそんなことは思えない。本当に必要なものは金なんかじゃないのだ。
だったらそれは、俺が与えてやろう。俺が一生側にいて、それを与えてやる。
「これから俺の部屋に住めばいい。どうせ半同棲状態なんだし、お前が一人でも大丈夫になるまで彼女なんて作らないから。だから俺と一緒にいてよ、一樹」
「よ、よーいち?」
「俺がお前の生きる意味になってやる」
「なにそれ笑うとこ?」
「笑うとこ」
失笑モノの台詞をひとつ。あと数年はこれをネタに一樹にからかわれる気がする。でも、死にたいなんて言われるよりもそっちのほうがいい。
「……ま、いーよ。じゃあこの肩に頭乗せられるのも、お前のふわふわベッドで寝るのも今後一切俺だけってことで」
「ああ、って待て。今の言い方だと俺のベッド、いつもみたいに占領する気だろ? 床で寝ろってか、ふざけんな布団敷いてやるからお前が床で寝ろ。」
「やなこった」
一樹はまたこたつ布団を自分の肩まで上げると、あったかいと一言呟いて、安心して眠くなったのだろうか。寝息を立て始めた。
つられて俺まで眠くなってきた。そっとまぶたを閉じると、一樹の体温をより感じられた。二度とリスカ未遂なんて真似させるものか。そう誓いながら、俺もそのまま眠りについた。
作品名:D/A循環スパイラル 作家名:黒崎苑雨