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D/A循環スパイラル

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「死にたい」

 俯きながら、彼はいつものようにぽつりと呟いた。


「よーいちー、俺のこと殺してー」

 相変わらず物騒なことをいう男だ。そんなことをしてみろ、捕まる。

「いつも言ってるけど、そんなに死にたいのか?」
「死にたい」
「うそつき」
「うそじゃねーし」

 そう言いつつも彼はあくまでも表情を崩さない。どこまで本気で言っているのだろうか。
 けれどこの会話は、彼といるたびにしているものだ。例え真顔で言っていても、彼に死ぬ気がないことぐらい分かる。

「一樹」
「なぁに」
「死にたいなら、勝手に樹海にでも行って来い」
「やだ。俺よーいちに殺されたい」
「俺を豚箱に突っ込む気か」
「よーいちじゃなきゃいや」
「あほ」

 近所の駄菓子屋で買った風船ガムをぷくーっと膨らましながら、彼は駄々をこねた。まるで母親にお菓子をおねだりする子供のようだ。
 しかし、なぜ一樹が死にたいと言うのかが全く理解できない。
 俺は小学三年生のとき、父が運転していた車がトンネル内でトラックに衝突され、両親を亡くしている。事故のあとすぐに病院に搬送されたものの両親はすでに手遅れ。俺も一時心肺停止状態だったらしい。
 それ以来トンネルを通るのも怖いほどだ。死にたくなんかない。
 そのため俺は高校二年生ながら一人暮らしをしている。学費も家賃も親戚が出してくれている。何度も会ったことがあったある人達で、子供が生まれなかったせいか俺のことを自分たちの子供のように思ってくれている。彼らの家に住むことも提案されたが、学校も遠いこともあり一人暮らしを選んだ。おかげでバイトをしつつもなんとかやりくりできている。
 そして今こたつの向かいにいる槇村一樹とは小学校五年生の頃からの親友だ。誰よりも信頼もしているし、正直彼がいれば彼女なんていらないとさえ思う。かつて彼女がいたこともあったがどうしても一樹と居るほうが楽しくて、それが原因でフラれてしまった。
 それは一樹も一緒らしく同じ理由で過去にいた彼女にフラレていたし、週に三~四回は必ず俺の家に泊まりに来る。親御さんもどうやら俺なら安心だと言っているらしく、ほぼ半同棲状態だ。
 決して、恋人だとかというわけではないのだけれど。

「洋一、すき」
「ん、俺もすき」
「へへー」

 先ほどとは打って変わったような笑顔で、一樹は喜んだ。
 別に俺たちはゲイだとか、そういうわけではない。けれどこうやって恋人同士がするようなやりとりをしても全く気持ち悪いとは思わない。むしろ心地いいのだ。

「俺さ、洋一とならキスできるよ」
「する?」
「やーだ」
「俺も一樹とならできるよ、セックス」
「……する?」
「する?」
「しない」
「やっぱり」

しかしそれでも超えちゃいけない一線というのはわきまえているつもりだ。直接肌が触れる関係よりも、今のままのすきと言い合う関係でいたい。もしも肌が触れてしまえば、俺達はきっと親友ではなく中途半端な関係になってしまう。
たぶん、俺の奥底には一樹のことを恋愛感情で好きだと思っている部分があるのかもしれない。でもそれは永遠に奥底に秘められていていいことであり、一樹も同じ考えなんだと思う。

作品名:D/A循環スパイラル 作家名:黒崎苑雨